京都ツウのススメ

第四十七回 京のひな祭り

[女の子の健やかな成長を願う桃の節句] 美しいひな人形を飾って祝うひな祭り。平安時代以来、独特の風習が受け継がれる京のひな祭りについて、らくたびの森明子さんがご案内します。

ひな祭りの基礎知識

其の一、
人形(ひとがた)を川に流す厄払いの行事と宮中の人形(にんぎょう)遊びが一緒になり生まれました
其の二、
京都のひな人形は、男びなを向かって右に、女びなを左に飾ります
其の三、
ひな祭りには、決まった料理や独特のお菓子を食べる習わしがあります

ひな祭りの起こり

3月3日は「上巳(じょうし)の節句」と呼ばれています。上巳とは、旧暦3月の最初の巳(み)の日のことで、中国ではこの日に川で体を清めて災厄をはらうという風習がありました。これに習って日本でも平安時代、紙やワラで作った人形(ひとがた)に身のけがれを移し、川に流すようになったのがひな祭りの始まりです。このひとがたを流す習わしと、宮中で行われていた紙の人形(にんぎょう)遊び「ひいな遊び」が結びつき、「流し雛」となりました。その後、人形作りの技術が発達した室町時代には室内で人形を飾るようになり、女の子の幸せと成長を願う現在の「ひな祭り」へと変化していきました。

古式ゆかしい京のひな祭り

豪華な段飾りをするようになったのは、江戸時代の頃からと言われています。もともと、ひな人形は宮中の装束を模して作られました。そのため、御所とゆかりの深い京都では、宮廷文化やしきたりを忠実に再現した有職雛(ゆうそくびな)が作られ、ほかでは見られない独自の飾り方が今に伝わっています。また、3月になると人形の寺として親しまれる宝鏡寺や下鴨神社などでは古式ゆかしいひな祭りの行事が行われます。

[雅な宮廷文化伝えるひな人形] 最上段に飾られる男びなと女びなは、天皇と皇后を表すものとされています。そのため、伝統を重んじる京都では、京都御所の紫宸殿(ししんでん)において、向かって右に天皇が、左に皇后が位置するという習わしに従い、向かって右に男びなを飾ります。これに対し、関東では昭和天皇が国際マナーに即して右(向かって左)に並ぶようになって以来、男びなを右に配置します。

  • [1段目]内裏びな
  • [2段目]三人官女
  • [3段目]五人囃子
  • [4段目]随臣 左大臣、右大臣
  • [5段目]仕丁、左近の桜 右近の橘
  • [ココがツウ]5段目の桜と橘の飾りは、紫宸殿の前庭にある「左近の桜」「右近の橘」を模したものです

ひな人形の小道具

三人官女

2段目には宮中に仕える女官が並びます。一般的に、その小道具は向かって左から「加銚子(くわえのちょうし)・三宝(さんぽう)・長柄銚子(ながえのちょうし)」ですが、京都では皇室の結婚式を模しているため、真ん中の座り官女は、松竹梅を飾った「嶋台(しまだい)」を持っています。

真ん中の座り官女は年長の女官長。既婚者なので眉を落とし、お歯黒を付けています

ココがツウ

座り官女

仕丁

5段目に飾られる衛士(兵士)で、怒り・泣き・笑いの表情から、“三人上戸(じょうご)”とも呼ばれます。一般的には左から「台傘・沓台(くつだい)・立傘」を持つ大名行列のスタイルですが、京都では御所の清掃係を表すため、「くまで・ちりとり・ほうき」を持っています。

三人上戸

写真協力:東山三条 田中人形

ひな祭りの料理と節句菓子

身しじみの炊いたん

シジミの身を、細く刻んだショウガと一緒に甘辛く煮たお総菜。びわ湖で獲れる瀬田シジミが容易に手に入ったことから、食べられるようになったと言います。

身しじみの炊いたんの写真

ひなかまぼこ

花の模様が入った手のひらサイズの板かまぼこ「ひな板」や、鯛・菱餅など、色とりどりの細工かまぼこを詰め合わせた縁起もののかまぼこ。

ひなかまぼこの写真

引千切(ひちぎり)

宮中の儀式で用いられた「戴餅(いただきもち)」に由来する和菓子。餅を杓子(しゃくし)形に引きちぎったように見えることからこの名で呼ばれます。

江戸時代、京都では女の子が生まれると、父方の実家に菱もちや引千切を贈る風習があったと言います

ココがツウ

引千切の写真

沿線のひな祭り行事

下鴨神社「流しびな」

境内の御手洗(みたらし)川に、桟俵(さんだわら)にのせた和紙の人形を流して災厄をはらい、子供たちの健やかな成長を願う神事。古式ゆかしい風習を雅やかに体感できます。

3/3(土) 11時
075-761-3460(京人形商工業協同組合)
www.kyo-ningyo.com
出町柳駅下車 北へ徒歩約10分

下鴨神社「流しびな」の写真

市比賣(いちひめ)神社「ひいな祭」

神社の本殿では、ひな人形の原型とされる「天児(あまがつ)」が展示されます。また、貝合わせなどの貴族の遊びや文化が披露されるほか、ひな壇に実際に人が並ぶ「ひと雛」が行われます。

3/3(土) 13時~16時
1,000円(お守り・茶券付き)
075-361-2775
ichihime.net
清水五条駅下車 南西へ徒歩約5分

ひと雛の写真

制作:2012年2月
京都ツウ・ウオーク開催レポート

「気品薫る京のひな祭り」~西陣の門跡尼寺を訪ねて~  2012年3月24日(土)開催

バックナンバー
第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
第百八十六回 京都の地ソース
第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
第百八十一回 京都の中華料理
第百八十回 琵琶湖疏水と京都
第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
第百七十八回 京都と徳川家
第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
第百七十四回 京の難読地名
第百七十三回 京の縁日
第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
第百七十一回 京都の通称寺
第百七十回 京都とキリスト教
第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
第百六十七回 京の城下町 伏見
第百六十六回 京の竹
第百六十五回 子供の行事・儀式
第百六十四回 文豪と京の味
第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
第百六十二回 京都のフォークソング
第百六十一回 京と虎、寅
第百六十回 御火焚祭
第百五十九回 鴨川の橋
第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
第百五十七回 京都とスポーツ
第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
第百五十五回 京都の喫茶店
第百五十四回 京の刃物
第百五十三回 京都の南蛮菓子
第百五十二回 京の社家(しゃけ)
第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
第百五十回 京のお雑煮
第百四十九回 京の牛肉文化
第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
第百四十七回 明治の京都画壇
第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
第百四十五回 ヴォーリズ建築
第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
第百四十三回 京の人形
第百四十二回 京の社寺と動物
第百四十一回 鳥居(とりい)
第百四十回 冬の食べ物
第百三十九回 能・狂言と京都
第百三十八回 京都と様々な物の供養
第百三十六回 京都とビール
第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
第百三十四回 精進料理
第百三十三回 明治時代の京の町
第百三十二回 皇室ゆかりの建物
第百三十一回 京の調味料
第百三十回 高瀬川
第百二十九回 蹴鞠
第百二十八回 歌舞伎
第百二十七回 京都に残るお屋敷
第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
第百二十五回 京の学校
第百二十四回 京の六地蔵めぐり
第百二十三回 京の七不思議<通り編>
第百二十二回 京都とフランス
第百二十一回 京の石仏
第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
第百十九回 生き物由来の地名
第百十八回 京都の路面電車
第百十七回 神様への願いを込めて奉納
第百十六回 京の歴食
第百十五回 曲水の宴
第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
第百十三回 パンと京都
第百十二回 京に伝わる恋物語
第百十一回 鵜飼(うかい)
第百十回 扇子(せんす)
第百九回 京の社寺と山
第百八回 春の京菓子
第百七回 幻の京都
第百六回 京の家紋
第百五回 京の門前菓子
第百四回 京の通り名
第百三回 御土居(おどい)
第百二回 文学に描かれた京都
第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
第百回 夏の京野菜
第九十九回 若冲と近世日本画
第九十八回 京の鍾馗さん
第九十七回 言いまわし・ことわざ
第九十六回 京の仏師
第九十五回 鴨川
第九十四回 京の梅
第九十三回 ご朱印
第九十二回 京の冬の食習慣
第九十一回 京の庭園
第九十回 琳派(りんぱ)
第八十九回 京の麩(ふ)
第八十八回 妖怪紀行
第八十七回 夏の京菓子
第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
第八十五回 新選組
第八十四回 京のお弁当
第八十三回 京都の湯
第八十二回 京の禅寺
第八十一回 京の落語
第八十回 義士ゆかりの地・山科
第七十九回 京の紅葉
第七十八回 京の漫画
第七十七回 京の井戸
第七十六回 京のお地蔵さん
第七十五回 京の名僧
第七十四回 京の別邸
第七十三回 糺(ただす)の森
第七十二回 京舞
第七十一回 香道
第七十回 天神さん
第六十九回 平安京
第六十八回 冬の京野菜
第六十七回 茶の湯(茶道)
第六十六回 京の女流文学
第六十五回 京の銭湯
第六十四回 京の離宮
第六十三回 京の町名
第六十二回 能・狂言
第六十一回 京の伝説
第六十回 京狩野派
第五十九回 京寿司
第五十八回 京のしきたり
第五十七回 百人一首
第五十六回 京の年末
第五十五回 いけばな
第五十四回 京の城
第五十三回 観月行事
第五十二回 京の塔
第五十一回 錦市場
第五十回 京の暖簾
第四十九回 大原女
第四十八回 京友禅
第四十七回 京のひな祭り
第四十六回 京料理
第四十五回 京の町家〈内観編〉
第四十四回 京の町家〈外観編〉
第四十三回 京都と映画
第四十二回 京の門
第四十一回 おばんざい
第四十回 京の焼きもの
第三十九回 京の七不思議
第三十八回 京の作庭家
第三十七回 室町文化
第三十六回 京都御所
第三十五回 京の通り
第三十四回 節分祭
第三十三回 京の七福神
第三十二回 京の狛犬
第三十一回 伏見の酒
第三十回 京ことば
第二十九回 京の文明開化
第二十八回 京の魔界
第二十七回 京の納涼床
第二十六回 夏越祓
第二十五回 葵祭
第二十四回 京の絵師
第二十三回 涅槃会
第二十二回 京のお漬物
第二十一回 京の幕末
第二十回 京の梵鐘
第十九回 京のお豆腐
第十八回 時代祭
第十七回 京の近代建築
第十六回 京のお盆行事
第十五回 京野菜
第十四回 京都の路地
第十三回 宇治茶
第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方
  • おすすめ!
  • おでかけナビ
  • 京阪沿線って?
  • K PRESSプレゼント
  • ぶらり街道めぐり
  • 京阪・文化フォーラム
  • 京阪グループおトク情報
  • 他社線から京阪電車へ
  • 京阪グループ沿線の遠足・社会見学施設のご案内
  • ひらかたパーク
  • 京阪グループのホテル・レジャー予約
  • 比叡山へいこう!
  • アートエリア ビーワン

ページの先頭へ