京都ツウのススメ

第六十五回 京の銭湯

[心温まる憩いの場]人々の会話が弾み、大きな湯船に身も心も癒される空間・銭湯。京都の歴史や文化を感じることができる京の銭湯について、らくたびの若村亮さんが紹介します。

京の銭湯の基礎知識

其の一、
日本の入浴文化のルーツは、京都・八瀬のかま風呂のような蒸し風呂です
其の二、
銭湯は、庶民の娯楽や社交の場として発展しました
其の三、
のれんの形や地下水の利用など、京都独自の銭湯文化が数多く見られます

銭湯の変遷

日本では、古来より蒸気を利用した蒸し風呂で体を温め、疲労を回復させる文化がありました。そして飛鳥時代に仏教が伝来すると、寺院の僧侶が身を清めるための浴堂が造られました。これが庶民にも施浴として開放されるようになり、入浴文化が広がります。鎌倉時代以降は、町中に「湯屋」(=銭湯)が増え、入浴がより身近なものになりました。江戸時代になると、2階が休憩室として利用されるなど、銭湯は庶民の娯楽や社交の場として定着していきます。

京都の銭湯の特色

現在、京都市内で営業している150軒ほどの銭湯の中には、伝統的な京町家など、歴史ある建物を使用しているところも数多くあり、また、男女別々に分かれたのれん、脱衣カゴごとロッカーに入れる習慣など、京都独特の形や文化もたくさん息づいています。さらに、京都の銭湯の多くが井戸を持ち、地下水を沸かしているのも大きな特徴のひとつ。今度銭湯へ出かける時は、これらの点に着目して、よりその魅力を感じてみてはいかがでしょう。

京の銭湯の歴史〜時代とともに姿を変えてきた入浴スタイル。その歴史をたどり、京都の銭湯文化をひもときます。

古来〜平安時代

入浴文化の始まり

日本では、温泉などの蒸気を利用する、サウナのような蒸し風呂が古くから存在しました。京都・八瀬には、蒸し風呂の元祖と呼ばれるかま風呂があり、飛鳥時代の壬申の乱(672年)の際に利用されたと伝わります。その後仏教の布教に伴い、修行の一環として心身を清める意味を持つ入浴が、庶民にも広がりました。

八瀬という地名は、壬申の乱で背中に矢を受け傷を負った大海人皇子(後の天武天皇)が、かま風呂で治療したことが由来とも言われています

ココがツウ!

八瀬のかま風呂

八瀬のかま風呂

矢印

鎌倉〜室町時代

銭湯の登場

鎌倉時代になると、寺院による施浴が「功徳風呂」と呼ばれさらに盛んになる一方、料金を取って入浴させる湯屋が現れます。これが銭湯の始まりと言われ、室町時代末期に完成した「洛中洛外図屏風」には、革堂(行願寺)の横に設けられた当時の銭湯「革堂風呂」と、入浴をしている人々の姿が描かれています。

かつて八坂神社付近にあり、応仁の乱で焼失した雲居寺にも、元享年間(1321〜24年)に銭湯があったと伝わります

ココがツウ!
上杉本洛中洛外図屏風

「上杉本洛中洛外図屏風」
米沢市上杉博物館蔵

矢印

江戸時代〜近代

銭湯の最盛期

江戸時代には大都市に銭湯が広まり、庶民の娯楽や社交の場として親しまれました。当時は少しの湯と蒸気で温まる蒸し風呂形式が主でした。明治時代になると、広々した空間で大きな浴槽につかる「改良風呂」という現代と同様の銭湯が広まり、大正時代から戦後にかけて利用者のピークを迎えます。

船岡温泉の「温泉」とは、天然温泉という意味でなく、京都や大阪などにおける伝統的な銭湯の屋号に多く見られる名称です

ココがツウ!

八瀬のかま風呂

船岡温泉(京都市北区)
1923(大正12)年創業。
京都で唯一、国の登録有形文化財に登録されている銭湯。

4つの特色〜地元に深く根付き、多くの人から愛され続ける京の銭湯のポイントを紹介します。

  • タイル絵

    様々なタイル絵で彩られる京都の銭湯。浴室のほか、脱衣場の上部に取り付けられていることが多く、これは京都の銭湯独自の様式と言えます。

    タイル絵

    柳湯(京都市左京区)

  • 脱衣カゴ

    京都では衣服を入れた脱衣カゴごとロッカーに入れる習慣が見られます。中には昔ながらの柳行李(やなぎごうり)を使用し、屋号や個人名が書かれたものを置く銭湯も。

    脱衣カゴ

    長者湯(京都市上京区)

  • のれん

    せっけんメーカーが取引先の銭湯に配るのれんには京都型・大阪型・東京型などがあります。京都型は、男女2枚に分かれ、丈が長く真ん中に切れ目が入っています。

    のれん

    日の出湯(京都市南区)

  • 地下水

    京都の銭湯の多くに井戸があり、地下水を沸かして使用しています。地下水を利用した水風呂を設置している銭湯が多いことも、名水に恵まれた京都ならではの特徴です。

    柳湯

    泉湯(京都市伏見区)

こんなユニークな銭湯イベントも!
錦湯(京都市中京区)

1927(昭和2)年に建てられた町家様式の建物で、主に月曜の定休日を利用し、コンサートや古本市など様々な催しが行われています。詳しくはお問い合わせを。

●075-221-6479

錦湯
制作:2013年8月
バックナンバー
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第百八十六回 京都の地ソース
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第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
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第六十九回 平安京
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第六十二回 能・狂言
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第六十回 京狩野派
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第五十八回 京のしきたり
第五十七回 百人一首
第五十六回 京の年末
第五十五回 いけばな
第五十四回 京の城
第五十三回 観月行事
第五十二回 京の塔
第五十一回 錦市場
第五十回 京の暖簾
第四十九回 大原女
第四十八回 京友禅
第四十七回 京のひな祭り
第四十六回 京料理
第四十五回 京の町家〈内観編〉
第四十四回 京の町家〈外観編〉
第四十三回 京都と映画
第四十二回 京の門
第四十一回 おばんざい
第四十回 京の焼きもの
第三十九回 京の七不思議
第三十八回 京の作庭家
第三十七回 室町文化
第三十六回 京都御所
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第三十四回 節分祭
第三十三回 京の七福神
第三十二回 京の狛犬
第三十一回 伏見の酒
第三十回 京ことば
第二十九回 京の文明開化
第二十八回 京の魔界
第二十七回 京の納涼床
第二十六回 夏越祓
第二十五回 葵祭
第二十四回 京の絵師
第二十三回 涅槃会
第二十二回 京のお漬物
第二十一回 京の幕末
第二十回 京の梵鐘
第十九回 京のお豆腐
第十八回 時代祭
第十七回 京の近代建築
第十六回 京のお盆行事
第十五回 京野菜
第十四回 京都の路地
第十三回 宇治茶
第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方
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