- 其の一、
- 梅は、奈良時代初めに中国から日本に伝わりました
- 其の二、
- 当時は、桜よりも梅が人々に愛されたことがうかがえます
- 其の三、
- 京の梅は、歌や芸術作品に多く登場します
梅はなぜ人々に愛されたのか
梅は、桜と同様に春の花として古来より人々に愛されてきました。文献などによると、梅は奈良時代初期に中国から伝わったという説が一般的です。万葉集が編集されたのもこの頃で、約4,500首のうち植物を詠んだ歌が1,700首ほどあり、その中で梅は約120首、桜は約40首あります。どちらも日本人の感性になじむ、落ち着いた美しさを持っているため、歌人たちの心をつかんだのでしょう。当時の皇族は、遣唐使が中国から持ち帰った文化を積極的に取り入れていました。梅もそのひとつとして人々の憧れの対象となり、桜をしのぐ人気を誇ったとされています。
京に息づく梅の香り
やがて、日本古来の文化を見直す風潮の中で、京都御所の紫宸殿(ししんでん)の庭に植えられていた「左近の梅」が、桜に取って代わられるなど、梅は桜にその座を奪われた形になりました。しかし、人々が梅を愛していたことをうかがわせる文化が京都には多数残っており、梅を題材にした歌や、芸術作品、梅にまつわるエピソードなどが現代に伝わっています。
梅をこよなく愛した菅原道真が北野天満宮で詠んだ歌。東風とは春が近くなると東の方から吹いてくる風のことで、あるじ(主)は道真自身を指します。『梅の花よ、私が大宰府(福岡県)に左遷されていなくなっても、きちんと花を咲かせなさい』という意味です。
北野天満宮と梅の関係は古来より深く、社紋は梅をかたどっています。現在、境内には約1,500本もの梅の木があります
鎌倉時代末期、後醍醐天皇の皇子である宗良親王によるもので、現在の京都府城陽市にある梅の産地・青谷梅林のことを詠んだ歌です。江戸時代になって、淀藩より梅樹栽培の奨励を受け規模が拡大したと伝えられています。
琳派を代表する江戸時代の画家・尾形光琳の代表作「紅白梅図屏風」は、下鴨神社にある光琳の梅と呼ばれる紅梅をモデルに描いたと言われています。ほかにも、鎌倉時代の作家・藤原信實が北野天満宮の梅を描いた「北野天神縁起絵巻」も有名です。
下鴨神社境内を流れる小川の上流側からこの梅を見ると、光琳が描いたものに近い梅の姿を目にすることができます
平安京造営の際、京都御所の紫宸殿前に植えられた梅は、村上天皇の時代に起きた火災で焼失しました。代わりの梅を献上した紀貫之の娘が梅との別れを惜しんで詠んだ歌に感動した村上天皇は、梅を返し桜を植えました。そして右近に植えられた橘とともに「左近の桜・右近の橘」が定着しました。しかし旧嵯峨御所である大覚寺では左近に梅が置かれ続け、平安時代初期の面影を現在に残しています。
このエピソードから、時代祭に登場する紀貫之の娘は梅の小枝を持って歩いています
平安時代後期の僧・永観が、境内の梅の実を貧しい人に分け与えたり、病人の治療に用いたことから、慈悲よりなる梅という意味で「悲田梅」と呼ばれ、今も境内に残っています。
いずれも年始から春にかけておめでたいとされる植物。平安と長寿を表す松、丈夫であることから無事を意味する竹、そして雪の中でも花をつける梅は、強さと華やかさの象徴です。もともとランク付けはありませんでしたが、現代では松が最も上位とされ、次いで竹、梅の順が一般的です。
梅が実る時期に降る雨は、梅にとって恵みの水になるということから、6月の長雨を「梅雨」と呼ぶようになりました。梅の実が熟してつぶれることを「潰ゆ(ついゆ、つゆ)」と言い、梅雨を「つゆ」と読むようになったとの説があります。
もともと「えんばい」と読み、料理の味を調える塩と梅酢を指していましたが、「塩梅が良い」という言い方が「按排(あんばい)が良い(程良く物事を処理すること)」の意味と混ざるようになり、塩梅も「あんばい」と読まれるようになりました。
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