- 其の一、
- 平安時代中期、康尚(こうしょう)が造仏を職業にした最初の人物と言われます
- 其の二、
- 康尚の子・定朝(じょうちょう)が仏像造りの基礎を確立しました
- 其の三、
- 定朝の死後、円派、院派、慶派に分かれ、それぞれ活躍の場を確立します
定朝が築いた仏像様式の基本
仏像は、飛鳥時代や奈良時代には奈良を中心に制作されていましたが、平安時代になり密教が盛んになると、制作の場を京都へと移していきました。平安時代中期、それまでは1本の木を彫る「一木造り」だったのに対し、康尚の子・定朝は、何本かの木を組み合わせて仏像を造る「寄木造り」という、仏像を短時間で大量に制作することができる日本独自の様式を生み出しました。また、丸顔で細目のふっくらした姿が特徴の「定朝様」と呼ばれる作風は、千年以上経った今もスタンダードな仏像造りの様式として継承されています。
円派、院派、慶派の三分派へ
定朝の死後、長勢と覚助が仏師として名を馳(は)せるようになり、やがて円派、院派、慶派の3つに分かれます。京都では、定朝の仏像様式を踏襲し、個性を抑えた作風の円派と院派が好まれていたと言われます。一方、慶派では、鎌倉時代になって運慶・快慶という高名な仏師が活躍し、仏像崇拝の最盛期を迎えます。しかし、崇拝の対象が多様化する中で、仏像の存在感は薄れていき、仏像彫刻は鎌倉時代に最後の頂点を極めることになりました。
仏師が住み込んで仏像を制作した工房は「仏所」と呼ばれていました。主に円派が使用した京都・三条の三条仏所が始まりで、院助が祖と言われる七条大宮仏所、覚助が祖の七条仏所の3カ所がありました。七条仏所は鎌倉時代になって慶派の台頭を支えることにもなります。寝泊まりしながら仏像制作に励むことができるため、仏師の技量向上に大きく寄与したと言われますが、現在は七条仏所跡が残っているのみです。
仏師という職を築いた最初の人物。生涯に百数十体以上、それも大規模なものを多く手掛けたとされ、温和な雰囲気の仏像を好む藤原貴族に重用されました。康尚の作と断定できる仏像は現存しませんが、東福寺の塔頭・同聚院の不動明王像や広隆寺の千手観音坐像は康尚の作品と推測されています。
京都の無量寿院(後の法成寺)の九体阿弥陀像造立の際、康尚を手伝った功績をたたえられ、仏師として初めて「法橋」の地位を与えられました。
現存する唯一の作品は平等院鳳凰堂の阿弥陀如来坐像(国宝)。頬の丸い顔立ちや均整のとれた姿は「定朝様」として後の仏師の模範となりました
元々は僧に与えられる「法橋」「法眼」「法印」という位が、優れた仏師たちにも与えられました。この位に就いた者は、仏所を持てるようになり、造仏活動に専念できるようになりました
日本史上で最大規模の造仏が行われた白河・鳥羽両上皇の院政期に活躍したことで仏師として最高位の「法印」の位を得ました。その後、法成寺など京都のいくつかの寺院の造仏にも参加。柱絵を描くなど仏画にも秀でていました。
仁和寺の薬師如来坐像(国宝)はわずか11cmほどの白檀製の小さな像で、国宝の仏像としては最小です。子・長円も制作に参加しています
定朝様を継承し、関白・藤原忠実発願の阿弥陀如来像を造立、そして鳥羽天皇皇后である待賢門院発願の法金剛院の造仏に従事し、仏師として当時の最高位である「法眼」の位を得ました。
法金剛院の木造阿弥陀如来坐像(重文)。きれいに並んだ螺髪(らほつ)や整った顔立ちなどは定朝の後継らしさがうかがえます
運慶と並び、慶派の鎌倉時代の代表的な仏師。古代の彫刻の影響が強い運慶よりも京仏師の作風を多くとどめていて、玉眼を入れた写実的な顔立ちや装飾、彩色の美しさが特徴です。
醍醐寺の弥勒菩薩坐像(重文)は、ヒノキの寄木造りで金箔の細片で描いた文様が施されています
快慶は制作した多くの仏像に署名を残しており、無位の時期、法橋、法眼の位を得た時期それぞれに署名の仕方が異なっているため、制作年代の推定がしやすいと言われています
※名前の後に記した年代は推定造像期間で太字は没年
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