- 其の一、
- 家庭料理として京商家などで伝えられてきたおかずのことです
- 其の二、
- 暦や年中行事に合わせて作られる料理があります
- 其の三、
- 食材を最後まで使い切り無駄を出さずに「始末する」という精神が息付いています
京商家などの町衆料理
京都では、普段家庭で食べるおかずのことを「おばんざい」と呼びます。漢字では「お番菜」と書き、“番”には番茶や番傘と同じく「普段の、粗末な」という意味があります。四季を通じて暦や年中行事など京商家の暮らしに応じた町衆料理として育まれてきました。旬の食材を使った季節のおかずが作られる一方、京都は海から遠く、新鮮な魚介類が手に入りにくいため、代わりとなる塩干物や乾物、漬物、湯葉や豆腐を取り入れた常備食も作られました。
暮らしの知恵が育んだ料理
かつての京商家では、月初めの日は「にしんこぶ」、8の付く日には「おあげとあらめの炊いたん」と、決まった日に、決まったものを食べるという習わしがあり、節句など年中行事の際に食べるものも決まっていました。これは、日々の献立に手間をかけない合理的な暮らしの知恵であり、質素倹約を信条とする京商家ならではの習慣でもありました。また、おばんざいは食材に工夫を凝らし、無駄なく使う「始末する」料理と言われ、京都の旧家などでは、倹約に努め慎ましく過ごす暮らしの心得として、現在もその精神が受け継がれています。
干物のニシンと刻みコンブを甘辛く炊き合わせた料理。月初めには、新しい月を無事に迎えた感謝と「今月も渋う、こぶう( =しぶってケチって)暮らしましょう」という意味を込めて食し、商売繁盛に一層精を出すよう心掛けました。
「渋う」はニシンの渋みから、「こぶう」は刻みコンブの芯の部分を使うことから節約を諭す言葉として使われました。15日にも食べ、残り半月の家計をさらに引き締めました
水で戻したアラメ(荒布)を油揚げと一緒に炊き上げたもので、「炊いたん」とは京ことばで煮物のこと。コンブの仲間・アラメは、末広がりの八の付く日に「商いに芽が出るように」「病人が出ないように」という願いを込め食されました。
アラメのゆで汁は厄払いとして玄関などにまきました。8月に行われる五山送り火の朝にもまき、先祖をあの世へ送る「追い出しあらめ」の風習があります
ニンジン・青ネギ・油揚げなどとともにおからを炒(い)った料理。お金の出入りが多く、財布が空(から)になる月末に「お金やお客さんが途切れず、たくさん入る(=炒る)ように」と縁起をかついで食されました。
おからは包丁で切らなくても調理できることから、「切らず」が転じて「きらず」と呼ばれています。これには「縁が切れない」という意味が込められています
京商家では、祭事などの特別な「晴れ」の日と、普段の「褻」の日を厳格に区分することで倹約に努めました。普段はおばんざいを食べますが、晴れの日には手製のサバ寿司や豪華な仕出し料理をとってお祝いをします。
旬の季節にいただく相性の良い食材の組み合わせのこと。春にはタケノコとワカメを炊いた「若竹」、秋・冬には棒ダラとエビイモ(あるいはサトイモ)を炊いた「いもぼう」やニシンとナスを炊いた「にしんなす」などがあります。
9月はイモ類が収穫を迎える季節。中秋の名月は「芋名月」とも呼ばれ、小イモやサトイモの茎であるズイキを使ったおばんざいが食卓に並びます。
ちゃぶ台が並ぶこぢんまりとした店内では、おからや生湯葉煮、万願寺とうがらしなど、定番のものから旬の素材を使った季節ものまで、昔ながらのおばんざいが楽しめます。
- 17時~23時(L.O.)
日曜休業 ※月曜祝日の場合は営業、月曜休業 - 075-221-1061
- 三条駅下車 南西へ徒歩約10分
写真協力/京の町家 暮らしの意匠会議
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