京都ツウのススメ
第百三十二回 皇室ゆかりの建物
京都にある皇室ゆかりの建物京都にある様々な建物の中から、皇室に関わりの深いものをらくたびの若村亮さんが紹介します。それぞれにどのような背景があるのでしょうか。
基礎知識
其の一、
- 千年の都・京都には、皇室ゆかりの建物が多くあります
其の二、
- 現在の京都御所は平安期の姿を模して、江戸時代に造営されたものです
其の三、
- 皇族が代々住職を務めた寺院を門跡寺院と言います
歴代天皇の住まいや別荘
都として長い歴史を持つ京都には、天皇をはじめ、皇室にゆかりのある建物がたくさん残っています。京都御苑内の京都御所は歴代の天皇の住まいだった場所で、明治天皇の時代まで実際に使われていました。また、御所が火災に見舞われた時など、一時的に天皇の住まいとして用いられた場所は仮御所と呼ばれます。皇居とは別に設けられた天皇・皇族のための別荘は離宮と呼ばれ、京都には桂離宮、修学院離宮のふたつがあります。
上皇をはじめ、皇族が住職を務める寺院も
寺院の長である僧侶を住職と言い、上皇や皇族が代々住職を務めた寺院を門跡寺院と呼びます。京都には、我が国初の門跡寺院・仁和寺をはじめ、国内の門跡寺院の大半が集まっています。また、皇族の女性が住職を務めた比丘尼御所(びくにごしょ)(尼門跡(あまもんぜき))もあります。門跡寺院には仮御所だったところも多く、また御所からたくさんの建物が移築されており、ほかの寺院とは違った雅な趣を感じることができます。
京都にある皇室ゆかりの建物は、皇族の住まいと
皇族が住職を務めた寺院のふたつに分けることができます。
御所・離宮
京都には、今も天皇や上皇の住まいが残されています。
住まい兼政治の中心
京都御所 [上京区]
政治も行われていた天皇の住まい。鎌倉時代から明治時代まで、20人以上の天皇が暮らしました。たびたび火災に遭っており、現在のものは1855(安政2)年に建てられたもの。正門である建礼門奥の紫宸殿は御所の中でも最も格式の高い正殿で、昭和天皇の即位式も行われたところです。
今年10月22日に行われる「即位礼正殿の儀」で使用される天皇の御座「高御座(たかみくら)」は、大正天皇即位の際に制作されたもの。通常は京都御所の紫宸殿(ししんでん)で保管されています(現在は東京で修復中)
別荘や隠居所
修学院離宮 (しゅうがくいんりきゅう) [左京区]・桂離宮 (かつらりきゅう) [西京区]
天皇・皇族の住まいとは別に造営した邸宅を離宮と言い、静養地として利用されたほか、かつては譲位後の住まいとして建てられたこともありました。京都には、後水尾上皇によって造営された修学院離宮、八条宮家の別邸として建てられた桂離宮があります。
修学院離宮
京都御苑の東側、河原町通から川端通にかかる荒神橋は、京都御所が火災に見舞われた際に避難するために架けられた橋です
皇室の菩提寺
月輪山(東山区)にある泉涌寺(せんにゅうじ)は、住まいではありませんが、皇族の葬儀が行われたゆかりの深いお寺です。1242(仁治3)年、四条天皇崩御の際に葬儀が行われたことで、皇室の菩提寺「御寺(みてら)」の格式が与えられました。1374(応安7)年の後光厳院(ごこうごんのいん)の葬儀以降、幕末の孝明天皇までほとんどの天皇・皇族の葬儀が泉涌寺で行われています。
門跡寺院
平安時代以降、出家した上皇や皇族が代々住職を務めた寺院のこと門跡寺院と言います。明治時代に正式な称号としては廃止されましたが、それまでは特別な寺格を示す称号でした。
国内初の門跡寺院
仁和寺 (にんなじ) [右京区]
日本で最初の門跡寺院で、899(昌泰2)年に宇多上皇が出家して入寺しました。門跡寺院は御所から建物が移築されることが多く、仁和寺の金堂は慶長年間(1596~1615年)に造営された御所の紫宸殿を移築したもので国宝に指定されています。
仮御所としても利用
青蓮院 (しょうれんいん) [東山区]
平安時代に門跡の寺格を得たお寺。1788(天明8)年に起きた天明の大火で京都御所が炎上した際、後桜町上皇の仮住まいになったことから、粟田口という地名をとって粟田御所とも呼ばれました。茶室・好文亭は上皇の学問所でした。
御所人形が伝わる尼門跡寺院
霊鑑寺 (れいかんじ) [左京区]
1654(承応3)年、後水尾天皇の皇女・多利宮(たりのみや)を開基として創建されました。左京区鹿ケ谷に立つことから、かつては谷の御所とも呼ばれ、幼くして出家した皇女たちに愛された人形やカルタなども多数所蔵されています。
明治政府が発令した神仏分離令によって、皇女の出家は禁止されました。そのため、尼門跡は数少なくなっており、現在は京都と奈良にしかありません
細部に宿る雅なデザイン
洛北の古刹・曼殊院(左京区)も門跡寺院。天台宗の開祖・最澄が比叡山にお堂を建てたのが起源です。1495(明応4)年に伏見宮貞常親王の子・慈運大僧正が入ったことで門跡寺院となり、1656(明暦2)年に八条宮家の良尚法親王によって現在の地に移されました。良尚法親王はデザインセンスに長けた人物だったと言われ、曼殊院の建物の様々な場所に遊び心のある意匠が見られます。
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