京都ツウのススメ

第六十回 京狩野派(きょうかのうは)

[都の画壇を彩る御用絵師]京都を舞台に活躍した絵師集団である、多くの名作を残した京狩野派について、らくたびの山村純也さんが紹介します。

京狩野派の基礎知識

其の一、
室町時代から活躍した絵師集団・狩野派の一派です
其の二、
山楽と、その弟子・山雪が京狩野派の基礎を固めました
其の三、
京都の有力寺院や摂関家の障壁画・屏風を数多く手掛けました

狩野派の歴史

約400年にわたる狩野派の歴史は、室町時代後期に狩野正信が足利幕府の御用絵師に任ぜられたことに始まります。その子・元信は、日本古来の大和絵の装飾性を生かした狩野派の画風を確立し、さらにその孫・永徳は、織田信長など時の権力者の趣好に合ったきらびやかな桃山様式を完成させました。永徳の没後、その豪壮な作風を引き継いだのが、永徳の養子であり、後に京狩野派の祖となる山楽でした。

伝統を受け継ぐ京狩野派

徳川幕府の御用絵師として江戸に本拠地を移した、永徳の孫・探幽をはじめとする江戸狩野派に対し、京都に残った山楽の一派は独自の画風を確立し、京狩野派と呼ばれました。山楽に才能を認められて娘婿となった山雪は、山楽の画業を補佐しつつ画技を磨き、自らの作風を開化させました。山楽と山雪に代表される京狩野派は、摂関家や京都の大寺院の御用達として活躍し、多くの障壁画・屏風の傑作を残しました。

華麗なる御用絵師集団

京狩野派とは?

狩野派のうち、徳川の世に関東へ移った江戸狩野派と分かれ、京都で多くの名画を残した絵師集団です。初代・山楽と2代目・山雪が基礎を固め、京の地に根を下ろしながら、狩野派の伝統と独自の画風を引き継ぎ、幕末まで活躍を続けました。

ココがツウ!

京都御所の障壁画制作などに携わった鶴澤派も、江戸狩野派に属した後に分派し、京都に拠点を構えた一派です。

【京狩野派の源泉】狩野派の絵師・元信:2代目。狩野派の画風を大成させ、繁栄の基礎を築きました。・永徳:信長や秀吉に仕え、安土城をはじめ数々の障壁画を制作しました。・探幽:江戸に移り、徳川幕府の御用絵師としての地位を確立させました。(家系図)正信ー元信ー永徳ー京狩野派 山楽(養子)山雪(娘婿)永納(息子)ー孝信ー探幽霊ー
キーパーソンはこの2人
永徳の心を受け継ぐ

木村香雪模
狩野山楽像(部分)
京都国立博物館蔵

山楽

豊臣秀吉の勧めで永徳の弟子となり、その画風や気質も受け継ぎました。豊臣家滅亡の際、残党狩りから命を狙われますが、石清水八幡宮の僧・松花堂昭乗らの尽力によって、徳川秀忠より恩赦を受けます。その後は幕府からの依頼も受けました。

ココがツウ!

石清水八幡宮には、山楽が豊臣家滅亡後に身を隠していた松花堂跡が残っています

狩野山楽筆 牡丹図襖

狩野山楽筆 牡丹図襖(重要文化財)京都・大覚寺蔵

自然の活力を感じさせる豊かな装飾性や、ゆったりした構成は山楽ならでは。背景に金雲を描かず、全面金地とする手法は、後世にも影響を与えました。

独自の美の世界を開拓
山雪

木村香雪模
狩野山楽像(部分)
京都国立博物館蔵

山雪

山楽の弟子であり、後に娘婿となって京狩野派一門を支えました。世間との関わりを避け、絵のことばかり考える学者タイプの性格だと伝わります。山楽の作風を引き継ぎつつ、精密な描写や計算された画面構成が特徴の、独創的な画風を確立させました。

ココがツウ!

山雪の草稿を元に、息子・永納が完成させた『本朝画史』は、日本初の画人伝です

狩野山雪筆 雪汀水禽図屏風

狩野山雪筆 雪汀水禽図屏風(重要文化財)<右隻>

立体的に描き上げた波など、山楽ワールドとも言える独自の造形美を持つ傑作。京狩野派の特徴である、垂直と水平のラインが強調された岩にも注目。

京狩野派と京都のつながり

江戸の宗家から離れた京狩野派を支援したのは、有力な公家や寺院でした。

摂関家

京狩野派は、江戸時代末期まで代々、公家の九条家に仕えていました。「源氏物語」の一場面を描いた「車争図屏風」は、九条家の御殿の障壁画として制作されました。

狩野山楽筆 車争図屏風(重要文化財)東京国立博物館蔵

寺院

京狩野派は、京都の有名寺院の画作にも腕を振るいました。特に山雪は、東福寺伝来の「三十三観音図」の2幅を補作した功績により、僧位のひとつである法橋位(ほっきょうい)を得ました。

狩野山雪筆 観音天龍夜叉図

狩野山雪筆 観音天龍夜叉図
京都・東福寺蔵

【京都国立博物館】特別展覧会 狩野山楽_山雪
◆ 3/30(土)〜 5/12(日)◆

この春、京都国立博物館では狩野山楽と山雪の本格的な回顧展を開催。
魅力あふれる京狩野派の世界を楽しめます。

制作:2013年3月
バックナンバー
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第二十五回 葵祭
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第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
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第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
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