京都ツウのススメ

第五十七回 百人一首

[800年の時を超えて愛される 百人一首]古代から鎌倉時代までの歌人の心情に触れられる百人一首。誕生にまつわるエピソードやゆかりの地を、
らくたびの佐藤理菜子さんが紹介します。 写真:星野佑佳

百人一首の基礎知識

其の一、
歌人100人の短歌をひとり1首ずつ選んでまとめた和歌集です
其の二、
一般的に、鎌倉時代の歌人・藤原定家(ふじわらのさだいえ)が選んだ「小倉(おぐら)百人一首」が有名です
其の三、
「小倉百人一首」には、飛鳥時代から鎌倉時代の天皇や僧、貴族の歌が選ばれています

日本の心、和歌

中国の唐歌(からうた)に対して、日本で生まれた大和歌(やまとうた)のことを和歌と言います。5音と7音のリズムを持った言葉で構成されることが特徴で、長歌・短歌・旋頭歌(せどうか)など様々な種類がありました。現在、和歌と言えば5・7・5・7・7の調子に乗せた短歌を指し、風景を見た感動や、恋愛の喜びや悲しみなどが込められています。

名歌がそろった百人一首

短歌を集めた歌集の中でもよく知られているのが100人の歌をひとり1首ずつ選んだ百人一首。「武家百人一首」や「女百人一首」など様々ありますが、中でも最も有名なものは、今から約800年前に歌人・藤原定家によって選出された「小倉百人一首」です。天皇の命によって編纂(へんさん)された勅撰(ちょくせん)和歌集から天皇や僧、歌人としても有名な柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)や紀貫之(きのつらゆき)といった貴族など、100人の歌が集められています。その100首の内、恋の歌が43首、季節の歌が32首あり、歌で気持ちを伝える当時の文化を読み取ることができます。やがて江戸時代になると歌を覚えるために「歌かるた」が作られるようになり、今日では「小倉百人一首」は正月のかるた遊びとしても定着したのです。

現在も親しまれている 小倉百人一首 定家の選んだ百人一首は、京都・嵯峨で生まれました。誕生までのいきさつや土地に残る伝承を見ていきましょう。

選者は歌人の藤原定家

鎌倉時代初期に活躍した藤原定家は、平安時代の関白・藤原道長の5代目の子孫にあたります。歌の名手であったため、天皇の命を受けて『新古今和歌集』『新勅撰和歌集』を編纂したことでも知られます。

ココがツウ

定家の子孫は"和歌の家"として有名な冷泉家(れいぜいけ)。今でも平安貴族の文化を伝える年中行事が行われています

百人一首誕生のエピソード

約800年前、ある歌会に出席した定家は、主人の宇都宮蓮生(れんじょう)から「100首の和歌を書いた色紙で部屋を飾りたいので選んで欲しい」と頼まれました。定家は約1カ月もの時間をかけ、『古今和歌集』や『新古今和歌集』などから100首を選んだと言われています。

定家が住んだ小倉山荘

定家の山荘は、嵯峨にある小倉山のふもとにあったと言われ、その場所は常寂光寺や二尊院など諸説あります。常寂光寺には定家の像がまつられていますが、現在も特定はされていません。また小倉山荘はその後、時雨(しぐれ)亭とも呼ばれました。

常寂光寺
二尊院
ココがツウ

定家が選んだ「小倉百人一首」の名称は、定家や依頼主である宇都宮蓮生の山荘があった小倉山に由来すると言われています

百人一首とかるた
小倉百人一首殿堂 時雨殿

江戸時代のかるたをはじめ、百人一首にまつわる貴重な資料や歌の場面を再現したジオラマなどが展示されています。

  • 10時~16時30分(入館)
    月曜(祝日は翌日)・12/25(火)~1/4(金)休館
  • 大人500円・小中生300円
  • 075-882-1111 www.shigureden.or.jp
  • 三条駅から京都バス 61~64系統 市バス11系統 嵐山下車 西へ徒歩約5分/嵐電(京福)嵐山駅下車 南西へ徒歩約5分
貝合わせ遊び

かるたに似た遊びは平安時代からありました。貝の内側に絵を描き、合う一対を探す「貝合わせ」から発展した「歌貝(うたがい)」は、貝に描かれた上の句を読み、同じく貝に描かれた下の句を取るという現在のかるた遊びの起源となるものでした。

かるた始め式[八坂神社]

日本で初めて和歌を詠んだと伝わる神・スサノヲノミコトにかるた取りを奉納する神事。毎年1月3日に行われ、あでやかな平安装束に身を包んだ人々が妙技を披露します。

京を詠んだ百人一首 和歌に詠まれた風景の面影は、現代の京都にも残っています
【宇治】朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木 権中納言定頼(千載集)
  • 明け方、宇治川に立ちこめていた霧が途切れ途切れに晴れ、だんだん景色が見えてくる様子を詠んだものです
ココがツウ

網代は漁業の仕掛けのことで、宇治川では冬に氷魚(ひお)を取るために使われました

【大覚寺】滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ 大納言公任(千載集)
  • 大覚寺の滝は、水が枯れてもなおその名が伝わってくるほどの名滝であると歌っています。この滝は現在、碑だけが残る名古曽(なこそ)の滝のことです
【上賀茂神社】風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける 従二位家隆(新勅撰集)
  • 上賀茂神社の夏越祓(なごしのはらえ)を詠んだ歌。すっかり秋の気配となっているが、この行事を見ると暦の上ではまだ夏であることを思い出させてくれるという季節感を表現しています
制作:2012年12月
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