京都ツウのススメ
第百八十一回 京都の中華料理
協力:盛華亭
独自の発展を遂げた京風中華長く日本の中心だった京都は、食文化においても先進的な街でした。しかし、中華料理についてはそうとも言えず...。その理由や特徴を「らくたび」の谷口真由美さんが解説します。
基礎知識
其の一、
- 京都に中華料理店が登場したのは開国して半世紀も後のことでした
其の二、
- 京都の中華料理は地元の人々の好みに合わせて発展してきました
其の三、
- 味は香味野菜や香辛料の使用を控えたあっさり味です
京都に中華料理店が登場したのは大正時代
京都に中華料理店が登場し始めたのは大正時代の半ば過ぎ。横浜や神戸に中華街ができたのが明治の初めなので、中華料理に関しては京都はかなり遅れていたと言えます。中華街のある街の中華料理店では、中国出身の人々に向けて本場に近い味付けの料理が提供されていましたが、京都には中華街がないため、お客さんの多くは地元の人々でした。その後、京都の中華料理は京都の人々の好みに合わせながら独自に発展していきました。
香辛料を抑えたあっさり中華
お座敷に匂いを持ち込むことを嫌う花街が近いこともあり、京都の中華料理は強い香辛料を控えめにしたあっさり味。この京風中華の礎を築いたのは、現在京都市内に2店舗ある『ハマムラ』の初代料理長だった高華吉(コウファーカツ)さんでした。鶏ガラスープだけでなく、昆布だしを使うなど、高さんの味は和の雰囲気も感じられ、今や京風中華の特徴となっています。今回は、京都の中華料理の歴史と、京都らしいメニューをご紹介します。
長く都だった京都は、政治だけでなく、文化面においても最先端でした。
しかし、中華料理に関してはかなり遅いスタート。その理由とは?
京都の中華料理の始まりは大正時代
中華料理の文化は、鎖国が解かれた明治時代に、中国などの外国人が多く訪れた港町から日本各地に広がりました。横浜や神戸に中華街ができたのは明治の初め頃。そこでは現地の料理人によって、中国や欧米の人々に向けた本場に近い中華料理が提供されました。しかし、京都の街に初めて中華料理店が登場したのはそれから半世紀も過ぎた大正時代の終わり。これは1899(明治32)年まで、御所のある京都に入るにはパスポート以外に知事の入京免状が必要となるなど、外国人の京都への旅行や居住が制限されていたことが理由のひとつだと考えられます。
創業時の『支那料理ハマムラ』
(東山区)
京風中華のベースを築いた人物
京都の中華料理はニンニクや油、強い香辛料を控えたあっさり味で、昆布だしと鶏ガラのスープを用いるのが特徴だと言えます。これら京風中華のベースを築いたのは『支那料理ハマムラ』(現在の『ハマムラ』)の初代料理長を務めた高華吉さん。その後、独立した高さんは京都に『飛雲』『第一樓』『鳳舞』という中華料理店を作り、いずれも人気店となりました。
高さんの弟子たちが独立して開いた店は総称して「飛雲系」、または「鳳舞系」と呼ばれることも。それらの店では今でも高さんの味が受け継がれています
京都の中華料理店の始まり
1921(大正10)年
『廣東料理 蕪庵』創業
1924(大正13)年
『支那料理ハマムラ』創業
1926(昭和元)年
『桃園亭』創業
京都の中華料理店でよく見る、特徴的なメニューをご紹介します。
春巻き
高さんによる『鳳舞』の系譜を継ぐ『鳳舞楼(ほうまいろう)』の「韮黄春巻(にらまきあげ)」。味付けはもちろん、小麦粉に卵を混ぜて作った卵皮やほっそりしたスタイルは高さんの頃と変わらないそう。ニラやタケノコたっぷりのサクサクした春巻きです。
やきめし
京風中華のやきめしは、まるで炊き込みご飯のよう。『盛華亭(せいかてい)』の「五目焼き飯」は、先に味付けした具材をご飯と卵と一緒に焼くことであっさりとした味わいに仕上げています。
『盛華亭』の初代店主は、祇園にあった北京料理店『盛京亭』(2022年閉店)出身で、この系譜を飛雲系(鳳舞系)に対して盛京亭系と呼びます。実はこの「五目焼き飯」は『盛京亭』の初代が東京で学んだ作り方。京都の人に愛されるよう味の工夫を重ねたと言います
からしそば
『ハマムラ』の看板商品のひとつ、「からしそば」。鶏ガラスープと昆布だしで仕上げた塩味のあんに、溶いた和がらしと酢が利いています。辛みが後を引かず、どんどん食べられるあんかけそばです。
「からしそば」は、お店によってはまぜそばを意味する「撈麺(ローメン)」と呼ばれることもあります。また、京都の中華料理店では、揚げた鶏肉に和がらしと酢を利かせたあんをかけて食べる「からしどり」もよく見られます
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