京都ツウのススメ

第三十八回 京の作庭家

[今に残る京の名庭を造った作庭家たち]京都では時代ごとに優れた作庭家が現れ、個性あふれる名庭を今に残しました。京都の庭園美を磨き上げてきた作庭家たちの足跡を、らくたびの若村亮さんがご案内します。

京の作庭家の基礎知識

其の一、
京都の名庭誕生の背景には、優れた作庭家の存在があります
其の二、
平安時代後期に石立僧と呼ばれる庭造りの専門家が現れました
其の三、
各時代の名作庭家たちにより、様々な造園デザインが誕生しました

時代を映す名庭

京都には、平安時代以降の各時代を代表する庭園が残されており、その時代ごとの政治や思想、宗教が様々に反映されています。平安遷都の後、貴族たちの間で池を中心とした自然美にあふれる池泉(ちせん)庭園が造られてきました。鎌倉時代から室町時代にかけては、書院造りの発達に伴い作庭技術が向上。水を用いず白砂や石組(いわぐみ)などで構成された枯山水庭園が禅寺を中心に数多く作庭されました。この2つの庭園を基本に、安土桃山時代以降は大規模な大名庭園が、明治時代以降はモダン庭園が造られました。

多彩なデザインを生み出した作庭家たち

こうした盛んな庭造りの背景には、優れた作庭家の存在があります。平安時代後期には石立僧と呼ばれる作庭の巧みな僧侶たちが活躍。また、鎌倉~室町時代の夢窓疎石、江戸時代の小堀遠州、明治~昭和にかけて活躍した7代目・小川治兵衛らに代表される作庭家たちは、時代のニーズに応じて様々な造園デザインを生み出し、今に伝わる日本の庭園美を磨き上げていったのです。

[庭園史に名を残す名作庭家]京都の名庭が歩んできた歴史は、日本の庭園史そのものでもあります。各時代を彩る名作庭家たちの足跡をたどってみましょう。

平安後期

石立僧いしだてそう

平安時代後期から鎌倉時代にかけて、高い作庭技術を持った僧侶たちの総称。特に仁和寺の真言宗の僧が長けていました。

鎌倉

夢窓疎石むそうそせき(1275~1351年)

「借景」を取り入れ、禅の世界を表現

後醍醐天皇や足利尊氏からの信頼が厚かった禅宗の高僧。天龍寺の曹源池(そうげんち)庭園では、嵐山などの自然を借景として取り入れ、禅の教えが巧みに表現された禅宗庭園を作庭しました。

〈主な作庭〉
等持院 方丈庭園/西芳寺 庭園/天龍寺 曹源池庭園/南禅院(南禅寺塔頭) 庭園

天龍寺 曹源池庭園

ココがツウ

夢窓疎石は作庭に際し登竜門の故事にちなんだ滝石組「龍門瀑」を用いて禅の修業の厳しさを表現。後に金閣寺・銀閣寺の庭の手本となりました

室町

雪舟せっしゅう(1420~1647年)

水墨画の大家で作庭にも従事。東福寺塔頭の芬陀(ふんだ)院に雪舟作と伝えられる庭があります。

安土桃山

小堀遠州こぼりえんしゅう(1579~1647年)

豪壮な景観の中に茶道の美学を取り入れる

徳川幕府で作庭の指揮をとり、様々な形の石材を組み合わせた直線的な構成を初めて造園に持ち込みました。巨石を用いたダイナミックな景観で、建築・茶室・庭が調和し一体感が感じられるのが特徴です。

〈主な作庭〉
南禅寺 方丈庭園/金地院(南禅寺塔頭) 方丈庭園/元離宮二条城 二の丸庭園

元離宮二条城 二の丸庭園

ココがツウ

当代一の茶人としても知られた遠州の作庭には、より均整を重んじた、王朝文化の要素を持つ「綺麗さび」という茶道の美学が表れています

石川丈山いしかわじょうざん(1583~1672年)

徳川家の家臣を務めた後、詩仙堂に隠居。白砂の唐様庭園は丈山好みの庭として知られます。

江戸

7代目 小川治兵衛おがわじへえ(1860~1933年)

近代庭園の第一人者として活躍

宝暦年間(1751~1764年)から続く京都の植木店「植治(うえじ)」の7代目。当時完成したばかりの琵琶湖疏水の水を取り入れた池泉回遊式庭園を多く手掛けました。自然そのもののような開放的な庭園は「植治流」と呼ばれ、その後の近代庭園の手本となりました。

〈主な作庭〉
平安神宮 神苑/無鄰菴 庭園/円山公園/京都国立博物館 庭園

平安神宮 神苑

ココがツウ

明治の政治家・山縣有朋の別邸であった無鄰菴庭園には、当時の日本庭園にはなかった西欧風の芝生が取り入れられました

明治

重森三玲しげもりみれい(1896~1975年)

「永遠のモダン」を追求した革命児

美術の研究を目的に京都に移住後、独学で作庭を開始。力強い石組と、大胆に苔と敷石などを配した枯山水庭園を数多く作庭。日本庭園の伝統にモダニズムを融合させ、京都の庭園史に新風を吹き込みました。

〈主な作庭〉
東福寺 方丈庭園/松尾大社 庭園

東福寺 方丈庭園

ココがツウ

庭園の研究者として東福寺の調査をしていた時、同寺の造園計画が持ち上がり、ボランティアでこれを引き受けたことから、作庭家としてのキャリアが始まりました

大正

中根金作なかねきんさく(1917~1995年)

「昭和の小堀遠州」とたたえられた作庭家。妙心寺塔頭・退蔵院 余香苑や城南宮 楽水苑などの作庭で知られます。

昭和

制作:2011年5月
京都ツウ・ウオーク開催レポート

「梅雨に映える日本庭園」~名作庭家たちの偉業を訪ねて~  2011年6月25日(土)開催

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