京都ツウのススメ
第百二十一回 京の石仏
石に刻まれた
庶民の願い京都では、古くから石仏が彫られてきました。
今も広く信仰される石仏をらくたびの田中昭美さんが紹介します。
基礎知識
其の一、
- 境内や道端にまつられている石の仏像を石仏と言います
其の二、
- 京都には石仏が多く残り、古くは鎌倉時代のものもあります
其の三、
- 僧侶や仏師だけでなく、庶民によっ ても彫られました
京都は石仏の宝庫
石仏とは石に刻まれた仏像のこと。日本では古くから自然のものに神が宿るという考えがあり、石そのものをまつる風習がありました。仏教の伝来後、石仏を彫ることは僧侶の修行のひとつでしたが、江戸時代には庶民にも広がり、道端にも石仏が置かれるようになります。京都には石の阿弥陀如来像や地蔵菩薩像など多くの石仏が見られ、その数は数万体にも及ぶと言われています。
庶民の厚い信仰が受け継がれてきた証
国内にある石仏の多くは江戸時代以降に作られたものですが、日本仏教の聖地とも言える比叡山のふもとにある京都には、鎌倉時代に作られたとされるものも残されています。そのほとんどが白川石と呼ばれる軟らかい花か崗こう岩がんに彫られているため、風化しているものも多く、現在残っている石仏は文化財としても大変貴重です。今も人々に慕われている石仏からは、脈々と受け継がれてきた庶民の信仰心が感じられます。
京都では、寺院の境内をはじめ、町のあちこちに石の仏像を見ることができます。
その多くは、庶民の信仰心で守り続けられてきました。
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真言宗の開祖・空海の作と伝わる
石像寺(しゃくぞうじ)の釘抜き地蔵
上京区
苦しみを抜き取るという意味から「苦抜き地蔵」と呼ばれていた地蔵菩薩。江戸時代、京都のある豪商の両手が突然痛み出し、この地蔵を参拝しました。すると夢の中に地蔵菩薩が現れ『その痛みは前世で人を恨み、人形の手に八寸釘を打ち呪ったためだ』と告げ、その釘を抜きました。すると目覚めた時には痛みは消えていたそうです。このことから、苦抜きが転じて「釘抜き」となりました。
願いが成就したら2本の八寸釘と釘抜きを貼り付けた絵馬を奉納するのが習わしです
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説話のワンシーンを立体に
清凉寺の弥勒(みろく)宝塔石仏
右京区
高さ約2mの石の西側に弥勒如来、東側に宝塔が彫られています。塔身には釈迦如来と多宝如来の姿も見られます。これは釈迦が霊鷲山(りょうじゅせん)で説法をしていた時の逸話を表したもの。地面から宝塔が 湧き出し、中から現れた多宝如来が釈迦の説法を讃えて塔内に招き入れて談笑したと伝えられています。
片方の面に石仏、もう片方に仏塔というスタイルの石仏は大変珍しいものです。京都では大徳寺境内でも見ることができます
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庶民の信仰心が生んだ
清水寺の石仏群
東山区
清水寺の本堂手前に並ぶ石仏群。一部はもともと京都の町のあちこちにまつられていたもので、明治時代初頭の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の際に、石仏を守ろうとした庶民の手によってこの地に集められたと言います。多くは室町時代から江戸時代に作られたもの。 今も色とりどりの前掛けが付けられた石仏からは、人々の仏を思う気持ちが伝わってきます。
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商人の願いを受けて
西岸寺(さいがんじ)の油懸地蔵(あぶらかけじぞう)
伏見区
※油をかけての参拝は金曜の13時~15時のみ
西岸寺の地蔵菩薩は油懸地蔵と呼ばれています。昔、山崎の油商人がお寺の門前で転んで油をこぼしてしまった際、残った油を地蔵に掛けて帰りました。その後、商売は大繁盛し、商人は大金持ちに。この言い伝えにあやかろうと、多くの人が油を掛けて参拝するようになりました。
この言い伝えは江戸時代に発行された書物に記されています。長い間、人々が掛けてきた油は、現在2cm以上の厚さになっています
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元豊臣家家臣の悲願から生まれた
広沢池の千手観音
右京区
1641(寛永18)年に、かつて豊臣家の家臣であった豪商・樋口平太夫(ひょうたゆう)の発願で刻まれました。仁和寺近くの蓮華寺から移されたもので、大坂の陣で亡くなった仲間の菩提を弔うための千手観音像だと言われます。通常42本ある手は28本。堅い石に丹精込めて彫った様子が目に浮かぶようです。
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