京都ツウのススメ
第百七十六回 大念仏狂言 (だいねんぶつきょうげん)
壬生狂言で春と秋に演じられる『炮烙割』
身振り手振りの宗教劇宗教劇として誕生し、民俗芸能としても定着している大念仏狂言について「らくたび」の谷口真由美さんがご紹介します。
基礎知識
-
其の一、
- 大念仏狂言は、仏の教えを説く法会(ほうえ)から生まれた宗教劇です
-
其の二、
- 演者は役柄ごとに決まった面をつけ、お囃子(はやし)に合わせて演じます
-
其の三、
- 壬生寺や清凉寺など4つの寺で、春や秋、節分に上演されます
念仏の功徳(くどく)を人々に説いたのが始まり
大念仏狂言は「ひとりが唱える念仏で、周りの人も往生できる」という教えの融通(ゆうずう)念仏〈大念仏〉に由来する宗教劇。能楽のひとつである狂言とは違った歴史を持つ京都の伝統芸能です。壬生寺や清凉寺の大念佛狂言は、円覚(えんがく)上人が大念仏会に集まった人々に念仏の功徳を説くために創始した無言劇がルーツと言われます。やがて古典文学などを題材にした能や喜劇的な狂言の演目も加わり、庶民の娯楽としても発展しました。
地域の人々が受け継ぐ民俗芸能
面をつけた演者が、鉦(かね)や太鼓、笛などのお囃子(はやし)とともに無言で演じる大念仏狂言は、身振り手振りだけで内容が伝わるよう工夫されたものだと考えられます(例外として、ゑんま堂大念佛狂言の演目の多くはセリフがあります)。演目には、勧善懲悪(かんぜんちょうあく)を描いたものや笑いが起こるユーモラスなものなど、様々なものがあります。現在は、地域の人々を中心とした保存会などの団体によって、大切に受け継がれています。
壬生寺、清凉寺〈嵯峨釈迦堂〉、引接寺〈千本ゑんま堂〉で行われる
大念仏狂言は京都の三大念佛狂言として知られています。
また神泉苑にも狂言堂があり、神泉苑大念佛狂言が行われます。
壬生寺(みぶでら)
中京区
壬生大念佛狂言(壬生狂言)
春や秋、節分に行われ、「壬生さんのカンデンデン」という愛称でも親しまれてい る壬生狂言。本尊の地蔵菩薩信仰に基づ く『餓鬼角力(がきずもう)』など、30の演目が伝わります。900年余りの歴史があ る2月の節分会では、参拝者の厄除招福 を祈願して『節分』が上演されます。
春の法要「壬生大念佛会」では、念仏狂言が延命地蔵菩薩に奉納されます。7日間の上演期間中は、連日初回に『炮烙割(ほうらくわり)』が演じられます。
京都では節分に壬生寺にお参りし、素焼きの皿・炮烙を奉納する風習があります。春や秋に上演される『炮烙割』でこの炮烙を舞台から落として割ることで、奉納者は厄除開運が得られると言われます
清凉寺(せいりょうじ)〈嵯峨釈迦堂(さがしゃかどう)〉
右京区
嵯峨大念佛狂言
1529(享禄2)年に作られた面が伝わり、室町時代には清凉寺で大念仏狂言が行われていたと考えられます。20の演目が伝承され、お松明(たいまつ)式が行われる3月15日や春・秋などに上演されます。
春季公演では『花盗人』がよく上演されます。花見に来た旦那が供(とも)に切らせた桜の枝を、盗人が盗みます。供は縄で盗人を捕まえようとしますが、誤って旦那に縄をかけるという、ユーモラスな演目です。
清凉寺の本尊の釈迦如来を題材にした演目『釈迦如来』は、嵯峨大念佛狂言特有のもの。お釈迦様が参拝に訪れた美しい母親と肩を組んで帰るなどコミカルな場面もあります
引接寺(いんじょうじ)〈千本ゑんま堂(せんぼんえんまどう)〉
上京区
ゑんま堂大念佛狂言
引接寺を開山した定覚(じょうかく)上人が布教のために始めた大念仏法会に由来し、節分や5月上旬に公演が行われます。27ある演目のほとんどが有言劇ですが、『えんま庁』と『芋汁』のふたつは無言劇です。
無言劇の『えんま庁』は、引接寺の本尊である閻魔法王の威力を表した演目。引接寺の開基・小野篁(おののたかむら)にちなむ新作『篁冥途噺(たかむらめいどばなし)』も誕生しました。
安土桃山時代の絵師・狩野永徳が描いた「洛中洛外図屏風」や、江戸時代に発行された「都林泉名勝図会」には、かつて境内にあった狂言堂での上演風景が描かれています
神泉苑(中京区)の狂言堂で上演される念仏狂言で、面や衣装、道具も独自のものが使われています。迫力ある太刀物や、笑いが起こる世話物、仏さまのありがたみを感じる宗教物など様々な演目があります。
演者は面をつけて演 じます。鬼、旦那な ど、役柄によって使 用する面が決まって います。衣装の中に は、亡くなった人の 供養として奉納され たものもあります。
大念仏狂言が行われる狂言堂は2階建て。演者が階下へ飛び込んで姿を消す演出ができる「飛び込み」や、綱渡りをする「獣台(けものだい)」など独特の舞台構造が見られます。
能や狂言にヒントを得た演目には、派手な立ち回りがあるもの、勧善懲悪がテーマのもの、喜劇的な要素を持つものがあります。嵯峨大念佛狂言では狂言風の「ヤワラカモン」と能風の「カタモン」と呼ばれる演目が交互に上演されます。
- 第百九十三回 秋の京菓子
- 第百九十二回 京都の植物
- 第百九十一回 京都の風習
- 第百九十回 幻の巨椋池(おぐらいけ)
- 第百八十九回 京都と魚
- 第百八十八回 京都とお花見
- 第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
- 第百八十六回 京都の地ソース
- 第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
- 第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
- 第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
- 第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
- 第百八十一回 京都の中華料理
- 第百八十回 琵琶湖疏水と京都
- 第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
- 第百七十八回 京都と徳川家
- 第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
- 第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
- 第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
- 第百七十四回 京の難読地名
- 第百七十三回 京の縁日
- 第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
- 第百七十一回 京都の通称寺
- 第百七十回 京都とキリスト教
- 第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
- 第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
- 第百六十七回 京の城下町 伏見
- 第百六十六回 京の竹
- 第百六十五回 子供の行事・儀式
- 第百六十四回 文豪と京の味
- 第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
- 第百六十二回 京都のフォークソング
- 第百六十一回 京と虎、寅
- 第百六十回 御火焚祭
- 第百五十九回 鴨川の橋
- 第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
- 第百五十七回 京都とスポーツ
- 第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
- 第百五十五回 京都の喫茶店
- 第百五十四回 京の刃物
- 第百五十三回 京都の南蛮菓子
- 第百五十二回 京の社家(しゃけ)
- 第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
- 第百五十回 京のお雑煮
- 第百四十九回 京の牛肉文化
- 第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
- 第百四十七回 明治の京都画壇
- 第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
- 第百四十五回 ヴォーリズ建築
- 第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
- 第百四十三回 京の人形
- 第百四十二回 京の社寺と動物
- 第百四十一回 鳥居(とりい)
- 第百四十回 冬の食べ物
- 第百三十九回 能・狂言と京都
- 第百三十八回 京都と様々な物の供養
- 第百三十六回 京都とビール
- 第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
- 第百三十四回 精進料理
- 第百三十三回 明治時代の京の町
- 第百三十二回 皇室ゆかりの建物
- 第百三十一回 京の調味料
- 第百三十回 高瀬川
- 第百二十九回 蹴鞠
- 第百二十八回 歌舞伎
- 第百二十七回 京都に残るお屋敷
- 第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
- 第百二十五回 京の学校
- 第百二十四回 京の六地蔵めぐり
- 第百二十三回 京の七不思議<通り編>
- 第百二十二回 京都とフランス
- 第百二十一回 京の石仏
- 第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
- 第百十九回 生き物由来の地名
- 第百十八回 京都の路面電車
- 第百十七回 神様への願いを込めて奉納
- 第百十六回 京の歴食
- 第百十五回 曲水の宴
- 第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
- 第百十三回 パンと京都
- 第百十二回 京に伝わる恋物語
- 第百十一回 鵜飼(うかい)
- 第百十回 扇子(せんす)
- 第百九回 京の社寺と山
- 第百八回 春の京菓子
- 第百七回 幻の京都
- 第百六回 京の家紋
- 第百五回 京の門前菓子
- 第百四回 京の通り名
- 第百三回 御土居(おどい)
- 第百二回 文学に描かれた京都
- 第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
- 第百回 夏の京野菜
- 第九十九回 若冲と近世日本画
- 第九十八回 京の鍾馗さん
- 第九十七回 言いまわし・ことわざ
- 第九十六回 京の仏師
- 第九十五回 鴨川
- 第九十四回 京の梅
- 第九十三回 ご朱印
- 第九十二回 京の冬の食習慣
- 第九十一回 京の庭園
- 第九十回 琳派(りんぱ)
- 第八十九回 京の麩(ふ)
- 第八十八回 妖怪紀行
- 第八十七回 夏の京菓子
- 第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
- 第八十五回 新選組
- 第八十四回 京のお弁当
- 第八十三回 京都の湯
- 第八十二回 京の禅寺
- 第八十一回 京の落語
- 第八十回 義士ゆかりの地・山科
- 第七十九回 京の紅葉
- 第七十八回 京の漫画
- 第七十七回 京の井戸
- 第七十六回 京のお地蔵さん
- 第七十五回 京の名僧
- 第七十四回 京の別邸
- 第七十三回 糺(ただす)の森
- 第七十二回 京舞
- 第七十一回 香道
- 第七十回 天神さん
- 第六十九回 平安京
- 第六十八回 冬の京野菜
- 第六十七回 茶の湯(茶道)
- 第六十六回 京の女流文学
- 第六十五回 京の銭湯
- 第六十四回 京の離宮
- 第六十三回 京の町名
- 第六十二回 能・狂言
- 第六十一回 京の伝説
- 第六十回 京狩野派
- 第五十九回 京寿司
- 第五十八回 京のしきたり
- 第五十七回 百人一首
- 第五十六回 京の年末
- 第五十五回 いけばな
- 第五十四回 京の城
- 第五十三回 観月行事
- 第五十二回 京の塔
- 第五十一回 錦市場
- 第五十回 京の暖簾
- 第四十九回 大原女
- 第四十八回 京友禅
- 第四十七回 京のひな祭り
- 第四十六回 京料理
- 第四十五回 京の町家〈内観編〉
- 第四十四回 京の町家〈外観編〉
- 第四十三回 京都と映画
- 第四十二回 京の門
- 第四十一回 おばんざい
- 第四十回 京の焼きもの
- 第三十九回 京の七不思議
- 第三十八回 京の作庭家
- 第三十七回 室町文化
- 第三十六回 京都御所
- 第三十五回 京の通り
- 第三十四回 節分祭
- 第三十三回 京の七福神
- 第三十二回 京の狛犬
- 第三十一回 伏見の酒
- 第三十回 京ことば
- 第二十九回 京の文明開化
- 第二十八回 京の魔界
- 第二十七回 京の納涼床
- 第二十六回 夏越祓
- 第二十五回 葵祭
- 第二十四回 京の絵師
- 第二十三回 涅槃会
- 第二十二回 京のお漬物
- 第二十一回 京の幕末
- 第二十回 京の梵鐘
- 第十九回 京のお豆腐
- 第十八回 時代祭
- 第十七回 京の近代建築
- 第十六回 京のお盆行事
- 第十五回 京野菜
- 第十四回 京都の路地
- 第十三回 宇治茶
- 第十一回 京菓子の歴史
- 第十回 枯山水庭園の眺め方
- 第九回 京阪沿線 初詣ガイド
- 第八回 顔見世を楽しむ
- 第七回 特別拝観の楽しみ方
- 第六回 京都の着物
- 第五回 仏像の見方
- 第四回 送り火の神秘
- 第三回 祇園祭の楽しみ方
- 第二回 京の名水めぐり
- 第一回 池泉庭園の眺め方