京都ツウのススメ

第九十回 琳派(りんぱ)

[琳派400年の流れを知る] 京都で生まれた日本芸術様式のひとつ、琳派。様々な分野で育んできた400年の歴史をらくたびの若村亮さんが案内します。 八橋図屏風(右隻部分) 酒井抱一筆 出光美術館蔵(10/10〜11/1展示)…A

琳派の基礎知識

其の一、
琳派は、400年前に本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)が京都に芸術村を開いたのが始まりです
其の二、
華やかな装飾性を特徴とする作品が多く生み出されました
其の三、
3世代の芸術家によって、約100年間隔で、芸術様式が受け継がれました

琳派の始まり

琳派は、平安時代の日本画様式・大和絵の技法や題材を元に、金箔を使ったきらびやかで大胆な装飾性を特徴とし、400年もの歴史を持ちます。1615(元和元)年、本阿弥光悦は親交のあった徳川家康から京都・鷹峯(京都市北区)に広大な土地を与えられ、各分野で活躍する文化人や職人などを集めて「光悦村」と呼ばれる芸術村を開きました。そこでは絵画だけでなく、陶芸、工芸品などが生み出され、琳派発祥の地とされています。

多くの芸術家が影響を受けた様式

光悦と俵屋宗達(たわらや そうたつ)が活躍した約100年後に尾形光琳(おがた こうりん)・乾山(けんざん)の兄弟が現れ、先人である彼らの画風を取り入れつつ発展させました。さらにその約100年後には京都から江戸へと広がり、酒井抱一(さかい ほういつ)などが、後に江戸琳派と呼ばれる自由な発想と文化の担い手として、世間に知られるようになりました。作品への憧れや尊敬を表す模写も多数あり、中でも宗達、光琳、抱一が描いた風神雷神図屏風は、題材は同じですがそれぞれの個性が表現されています。現代にも琳派の様式は受け継がれ、様々な芸術家に影響を与えています。

【芸術家の一群・琳派の時代】琳派を代表する各時代の芸術家とその作品を年表と合わせて紹介します。

400年続く琳派を受け継ぐ

琳派と呼ばれる芸術家たちの間には師弟関係はなく、それぞれが作風や意匠を取り込んで独自に発展させてきたものだったと考えられています。各時代の芸術家たちが直接的なつながりを持たないという特殊な形の中で発展しました。

ココがツウ!

琳派という名称は、美術史関係者が創り出した略称で、京都出身の絵師・尾形光琳の一文字をとって名付けられました。昭和40年代の美術辞書にも琳派についての解説はなく、琳派と呼ばれるようになったのは近年になってからです

日本初のアートディレクター 本阿弥光悦(1558-1637年)

書や絵画、陶芸など多くの才能を持った芸術家。和歌巻の下絵や歌を書く紙の装飾の制作で宗達と親しくなり、琳派の始まりとなる光悦村を開きました。陶芸や漆芸などの指導者としても活躍しました。

本阿弥家は、刀剣の手入れや鑑定をする京都の名家。享保年間(1716~36年)に徳川吉宗の命で、日本刀を公式格付けした「享保名物帳」を制作したと言われています

宗達が金と銀の泥を用いて装飾したツルの絵の上に、光悦が三十六歌仙の歌を筆で描いた合作です 重要文化財 鶴下絵三十六歌仙和歌巻(部分) 本阿弥光悦筆・俵屋宗達画 京都国立博物館蔵(全期間展示)…Ⓐ

琳派様式を江戸へ伝えた人物 酒井抱一(1761-1828年)

蒔(まき)絵や染織も手掛けた絵師で、江戸を拠点とする琳派のひとり。様々な流派の絵画を学んだ後、光琳の画風を受け継ぎ、世間へ広めて光琳様式の再興に尽くしました。

光琳の再来と呼ばれ評された芸術家 神坂雪花(かみさかせっか)(1866-1942年)

京都出身の画家で図案家。彼の作品は明治時代に琳派様式が再び注目されるきっかけになりました。また、漆器や陶器などの工芸作品の図案制作や指導も行った人物です。

木版画の作品集「百々世草(ももよぐさ)」は、琳派の図案を継承した全60作品から成ります 神坂雪佳「百々世草」より1909年 京都国立近代美術館蔵…Ⓑ

完成度の高い美を造る職人 俵屋宗達(生没年不詳)

絵屋・俵屋を営み、画家として公家や社寺などの巻物や扇絵、障壁画を描いていたということ以外は謎に包まれています。大胆かつ自由な発想の作風と構図で独自の画法を生み出し、後の琳派の作家たちへ影響を与えました。

金箔が張りつめられ、風神と雷神の形が際立ち、無限の奥行きを演出しています 国宝 風神雷神図屏風 俵屋宗達筆 建仁寺蔵(全期間展示)…Ⓐ

天才絵師の兄と名陶芸家の弟 尾形光琳(1658 -1716年) 尾形光琳(1658 -1716年)

光琳は、宗達が描いた屏風の模写をし、絵師として独自の画風を確立。また陶器の絵付けや着物・蒔絵の図案も起こし、後の光琳模様と称される元を築き上げました。弟の乾山は、京都の鳴滝に乾山焼の窯を開いた陶芸家として有名。書や絵画も手掛け、特に兄弟合作の作品が数多く残ります。

京都の高級呉服商・雁金(かりがね)屋を営む尾形家は、光悦と親戚関係にありました。恵まれた環境で育ったふたりには、光悦や宗達の作品が身近にあり、その豪華な暮らしぶりが作品に影響したと言われています

重要文化財 松波文蓋物 尾形乾山作 出光美術館蔵(全期間展示)…Ⓐ 外面は釉薬をかけずに素地を残し、宗達の金銀泥絵を思わせる手法で彩りを重ねています

重要文化財 孔雀立葵図屏風(左隻) 尾形光琳筆(10/10~25展示)…Ⓐ 空間の切り取り方を変えて立葵を配置し、赤と白の色の対比も効果的です

制作:2015年9月
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