京阪沿線の名橋を渡る

京阪沿線の名橋を渡る シリーズ3

瀬田の唐橋

戦乱の歴史の生き証人である古橋と若者たちが力漕するボートとの対比が鮮やかに 若一光司

日本最大の湖である琵琶湖には119本もの河川が注ぎ込んでいるが、琵琶湖から流れ出ている河川は、瀬田川だけである。その瀬田川には古来より一本の橋が架かっており、「瀬田橋」「大橋」「長橋」などと称されていた。

京都と東域を陸路で結ぶ交通の要衝だったこの橋は、672(天武元)年の「壬申(じんしん)の乱」以降、何度も歴史的な合戦の舞台となり、「瀬田橋を制する者は天下を制する」とまで言われた。まさに京都防衛上の、最重要地だったのだ。

その瀬田橋が「唐橋(からはし)」の名で親しまれるようになったのは、鎌倉時代のこと。瀬田橋が新たに唐様(中国風)の橋に架け変えられたことから、いつしかそう呼ばれるようになった。

以後も、「承久(じょうきゅう)の乱」や「建武(けんむ)の戦い」など、数々の戦火にみまわれ続けた唐橋は、織田信長の命を受けた山岡景隆(かげたか)(瀬田城主)によって、1575(天正3)年に現在地に移された。それ以前は現在地よりも少し上流に架かっていたことが、調査で確認されている。

だがその7年後に、明智光秀による「本能寺の変」が発生。光秀の安土攻めを阻止しようとした山岡景隆は、ただちに唐橋と瀬田城を焼き払ったものの、光秀軍はすぐにそれを修復して、信長の居城であった安土城へと侵攻。しかし「山崎の合戦」で秀吉軍に完敗した光秀は、「三日天下」で生涯を閉じた。

こうした長く凄まじい戦乱の歴史を経て、唐橋にようやく平和が訪れたのは、江戸時代になってからのこと。かつては生々しい戦場であり戦跡であった「瀬田の唐橋」は、やがて風光明媚(めいび)な景勝地として人気を博するようになり、近江(おうみ)国(現在の滋賀県)の優れた景観を選定した「近江八景」でも、「瀬田の夕照(せきしょう)」として讃(たた)えられるようになる。

さらに、歌川広重が描いた浮世絵や、「五月雨に隠れぬものや瀬田の橋」「橋桁の忍は月の名残り哉(かな)」といった松尾芭蕉の句などにより、唐橋の名は広く全国に知れ渡った。

ちなみに、「瀬田」という地名は古来より、「勢多」「勢田」「世多」等々、様々な表記が用いられてきた。それを行政が「瀬田」に統一したのは、1889(明治22)年のことである。

実は私は20年ほど前に、「琵琶湖」はどこから「瀬田川」になるのかを、現地を歩いて調べたことがある。その結果、琵琶湖と瀬田川の境界は、滋賀県立琵琶湖漕艇場(そうていじょう)のすぐ下流(大津市玉野浦字高砂2179番地2地先)であることがわかった。そこには、河川管理境界を示す、大きな標識が建てられている。

唐橋前駅下車 東へすぐ

その琵琶湖漕艇場では毎年、日本で最も参加クルー数の多い朝日レガッタや様々な競技大会が開催され、関西ボート界の一大拠点となっている。 周囲の河畔には多くの大学や企業の艇庫が並んでおり、ボート部員たちは琵琶湖漕艇場から瀬田川洗堰(あらいぜき)間を主な練習区域として、日々の鍛錬に余念がない。

私はその練習風景をぼんやりと眺めているのが、大好きだ。日本有数の古橋として、戦乱のたびに若者たちの血で塗られたであろう瀬田の唐橋を、現代の若者たちが力漕するボートがくぐり抜けてゆく様は、ただそれだけで、時代の平和を想わせてくれる。

[瀬田の唐橋付近をのんびり散策]1.石山商店街/2.龍王宮秀郷社/3.雲住寺/4.瀬田城跡/5.建部大社

歴史街道

れすとらん松喜屋 本店

れすとらんまつきや ほんてん

明治初期に近江牛の名を全国に広めた精肉店の直営レストラン。最高級の近江牛を使ったステーキやすき焼きなどがいただけます。1,000円台からとリーズナブルなランチは充実の品ぞろえ。

おすすめメニュー・店内写真

カフェレストラン アドリア

かふぇれすとらん あどりあ

瀬田川のほとりにあり、四季折々の水辺の景色が楽しめるカフェ。カレーやオムライスなど豊富な洋食メニューのほか、野菜中心の小鉢などが付く和洋折衷のお得なセットメニューも人気です。

  • 9時~20時30分(L.O.) 月曜休業
  • 077-537-3355
  • 唐橋前駅下車 南東へ徒歩約5分
おすすめメニュー・店内写真

辻末製菓舗

つじまつせいかほ

1880(明治13)年創業の老舗。 タニシ貝の形をした名物「たにし飴」は、ニッキと黒糖が織り成す素朴な味わいが特徴です。始めはピリッと刺激的ですが、徐々にまろやかな甘みに変化します。

  • 9時~18時 月曜休業
  • 077-545-0021
  • 唐橋前駅下車 東へ徒歩約10分
おすすめメニュー・店内写真
制作:2012年8月
価格・営業時間・電話番号等が変更される場合がありますので、
おでかけ時には、ご確認くださいますようお願い申し上げます。
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