第42回
京阪・文化フォーラム
花と建築 建築と華
大阪市中央公会堂をはじめとする大阪の歴史的建築物や開業10周年となる京阪中之島線をテーマに、生きた建築の魅力に迫ります。またギンギラ太陽’sによるミニ公演や華道の家元が登壇するトークセッションで、新たな発見へと誘います。
- 平成30年10月27日(土)18時〜20時30分
- 大阪市中央公会堂 3階 中集会室
- [講演] 「花と建築 建築と華」
- 大阪府立大学研究推進機構特別教授、大阪府立大学観光産業戦略研究所所長
橋爪紳也(はしづめ しんや)氏
- [ミニ講演] 「中央公会堂の時空大冒険」
- ギンギラ太陽’s
- [トークセッション] 「花と建築 建築と華」
- 華道「未生流笹岡」家元、京都ノートルダム女子大学客員教授、大正大学教員教授
笹岡隆甫(ささおか りゅうほ)氏
2018年に開館100周年を迎える大阪市中央公会堂。ちょうど京阪電車・中之島線も10周年を迎えるとあって、中央公会堂と中之島線の歴史についての興味深いご講演が行われました。
また、モノを擬人化する手法で物語を綴る劇団「ギンギラ太陽’s」によるミニ公演や、“花と建築”をテーマとしたトークセッションなど、今回も盛りだくさんの文化フォーラムとなりました。
■第1部:講演「花と建築 建築と華」
第1部は、大阪府立大学研究推進機構特別教授、大阪府立大学観光産業戦略研究所所長でいらっしゃる、橋爪紳也先生のご講演です。『倶楽部と日本人』(学芸出版社)や『明治の迷宮都市』(平凡社)など著書も多数で、大阪における「水と光のまちづくり」のキーパーソンとしてもご活躍されていらっしゃいます。
まずは「中之島と中央公会堂の100年」をテーマに、今年で100周年を迎える大阪市中央公会堂の辿ってきた歴史をお話しくださいました。
中央公会堂誕生にあたって、忘れてはならないのが株式仲買人・岩本栄之助氏です。株で得た利益を公共のために活かそうと考えた栄之助氏は、1909年に渡米実業団としてアメリカへ渡り、アメリカの富豪が多くの私財を公共事業に投じていることに強い感銘を受けます。アメリカのように大阪にもどこにも負けないホールを建設しようと考え、現在の貨幣価値でいえば数十億円という巨額の財産を大阪府に寄付。ついに中央公会堂建設が始まりますが、第一次世界大戦勃発の影響で莫大な損失を出した栄之助氏は、結局公会堂の完成を待たずにピストル自殺を選んでしまうことになります。
昭和の始め頃には、中之島は「日本のニューヨーク」「東洋のウォール街」といわれるようになります。そんな中之島にあって、歴史的な様式も入れながら新しいデザインを取り入れた中央公会堂は街のシンボルとなったようです。宝塚歌劇団の公演や国防婦人会の集会、記念事業など、さまざまな催しが開催され、大いに賑わっていました。また、この日講演が行われていた「3階 中集会室」は食堂の役割も果たしており、各扉の上にある丸いレリーフは魚や肉など食べ物のモチーフになっているとのこと。細かなディテールまで凝った意匠であると改めて知れ、ご参加された方々も周りを見渡しながら感心されているご様子でした。
1999年には戦前の姿に戻すための大改修を開始。2002年、免震技術を搭載するなど最新の安全設備が備わり、地震にも堪えられる建物へとよみがえります。なお、現在中央公会堂の正面入り口上部には「商業の神様」と「工芸の神様」がいらっしゃいます。大改修でそのお姿もしっかり修繕でき、今もなお公会堂はそれぞれの神様に守られているのです。
次は「中之島と京阪中之島線の10年」をテーマに、土木工事の記録映像を上映。公の場所で公開するのはほとんど初という貴重な映像で、訪れた皆さんも食い入るように映像をご覧になっているのが印象的でした。
最後は「水と再生と中之島の将来」をテーマに、橋爪先生が手がけられたさまざまな事業をご紹介いただきました。中之島には中央公会堂をはじめとした歴史的な建物と、国立国際美術館などのモダンな建物が共存しています。オフィス街でありながら文化的で魅力ある街として、多くの人が行き来できる場所にしたいと“水都再生”を掲げて開発に取り組んできたそうです。
その中でもとくに反響が大きかったのが、オランダ人アーティストが手がける巨大なアヒルアートを中之島の水辺に浮かべたこと。その際には大阪府警から「阪神高速を走行中のドライバーとアヒルの目が合うと危ない」と指摘があり、アヒルの目線を工夫したことなど裏話が明かされ、会場も大いに盛り上がりました。巨大なアヒルアートは中之島を飛び出し、広島・尾道などでも大人気だったそうです。
そのほか川床の雰囲気が楽しめる「北浜テラス」の開発や、川べりをイルミネーションで彩るプログラムなど、大阪府と連携して街をブランド化。さらに京阪中之島線の「中之島駅」「渡辺橋駅」「大江橋駅」「なにわ橋駅」は、それぞれ異なるテーマでデザインがなされ、アートに寄り添う路線であることをアピール。“水都再生”を掲げるにあたり、中之島の河川周辺は道頓堀周辺とはまた少し違う、落ち着いた雰囲気を演出しているそうです。
■第2部:公演「中央公会堂の時空大冒険」
第2部は、福岡を活動の拠点とする劇団「ギンギラ太陽’s」による公演です。ギンギラ太陽’sの最大の特徴は、建物や乗り物などのかぶりモノを用いてモノを擬人化し、物語を綴ること。今回は中央公会堂と京阪中之島線3000系車両を中心に、それぞれの誕生から現在に至るまでの歴史を約20分間に凝縮して披露されました。
岩本栄之助氏の英断から中央公会堂の建設がスタートし、完成を待たずに逝去した経緯。完成してからも、戦争によってさまざまな苦労があったこと。さらに京阪電車の歩みから中之島新線開通に至るまでの紆余曲折の物語。そういったドラマチックな出来事が次々へと繰り広げられ、観客の皆さんもステージに釘付けになっておられました。
また、ちょうどこの日は栄之助氏が逝去した日と同日の10月27日であり、不思議な縁を感じながら感動的なフィナーレとなりました。
■第3部:トークセッション「花と建築 建築と華」
第3部には、第1部でご登場された橋爪先生とともに、ゲストとして華道「未生流笹岡」三代家元・笹岡隆甫先生がご登壇。笹岡先生は舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求され、日本-スイス国交樹立150周年記念式典をはじめ、海外での公式行事でもいけばなパフォーマンスを披露されるなど各方面でご活躍とあって、歴史的建造物で花をいけたご経験などをお話しになられました。
上賀茂神社では聖俗の境にあたる橋殿で神に献じる花をいけたり、東寺ではいけばなパフォーマンスを披露されたりと、実際の写真をスクリーンに映しながら軽妙に語られ、ご参加された方々も熱心に耳を傾けていらっしゃいました。
歴史的な建造物で花をいけるということには、さまざまな苦労が伴うようです。世界遺産である二条城では花をいけるのに水を使ってはいけないというお達しが出たため、絶対に水が漏れないように大層大掛かりな二重構造の花台を使用。平等院鳳凰堂では、いけばなに使う松や桜に虫が付いていないかを学芸員が隅々までチェックし、「虫はいない」とOKが出て初めて中に入れることができたのだと明かされました。そういった苦労を経ていけられたお花は大変好評だったそうで、とくに左右対称の建築物である平等院鳳凰堂でいけた際には、左右非対称のいけばなが“ゆらぎ”をもたらし、「まるで厳格な平等院鳳凰堂が微笑んでいるようだ」とのじつに詩的な言葉もいただけたそうです。
日本だけではなく、海外でもご活躍されている笹岡先生。イタリア・フィレンツェのヴェッキオ宮殿で花をいけた際には、貴族のお庭に植わっていた木の枝を拝借し見事ないけばなを披露。熱帯性気候のインドネシア・ジョグジャカルタでは花を運搬しているほんの数時間の間で傷んでしまい、急遽調達した花でいけばなを披露したことなど貴重なエピソードを聞くことができました。
このように、さまざまな建物や場所で革新的ないけばなを披露されている笹岡先生は、中央公会堂を器に花をいけるのも面白いのでは、とご提案。例えば公会堂の横にAR(Augmented Reality:拡張現実)で私の動きを再現する大きなウルトラマンを出現させ、そのウルトラマンが公会堂に花を挿す、そんなことも楽しいのではないかとお話しされ、会場は一気に和やかな雰囲気に。中央公会堂は器としてもとても美しいからこそ、そういった“お遊び”も素敵なのではないかというお話しに、建物といけばなの可能性を感じずにはいられない一夜でした。
京阪・文化フォーラムは、今後も様々なテーマで開催いたします。みなさまのご参加をお待ちしております。
- 京阪グループ開業110周年記念事業「記念フォーラム」
- 第44回 京阪沿線の城と歴史発見
- 第43回 明治維新と東海道五十七次
- 第42回 花と建築 建築と華
- 第41回 今、なぜ明治維新なのか。〜西郷どんの実像〜
- 第40回 東海道五十七次と大津宿・伏見宿・淀宿・枚方宿・守口宿
- 第39回 大政奉還、鳥羽伏見の戦い
- 真田幸村の足跡を辿る —九度山から大坂の陣まで—
- 第38回 国宝 石清水八幡宮本社
- 真田丸の戦略と真田信繁(幸村)の実像に迫る!
- 第37回 馬と人間の歴史
- 第36回 光秀と秀吉の天下分け目の山崎合戦
- 第35回 中世の京都町衆と祇園祭
- 第34回 彩られた京都の古社寺
- 第33回 水辺の歴史 大川沿いにある大坂の陣戦場跡
- 第32回 神に祈った武将たち -石清水八幡宮と源平・足利・織田・豊臣・徳川-
- 第31回 天下統一の夢 -信長と光秀の光と影-
- 第30回 信仰とお笑いの狭間に落語
- 第29回 平清盛と平家物語
- 第28回 葵祭
- 第27回 酒は百薬の長 落語は百楽の長
- 第26回 今に生きる熊野詣