大川沿いの天下の「大坂城」を中心に町づくりをおこなった太閤秀吉。大坂冬の陣、夏の陣の戦場跡にのこる悲喜こもごもの歴史ドラマをとりあげます。
- 平成25年10月25日(金)17時30分~20時
- 追手門学院 大阪城スクエア(京阪電車「天満橋駅」下車徒歩約10分)
- [講演] 「大坂の陣 水辺の戦い」
- 大阪城天守閣研究主幹
北川 央(きたがわ ひろし)
- [講談] 「難波戦記—真田幸村の砲撃」
- 講談師
旭堂 南鱗(きょくどう なんりん)
- [トークセッション]
- 北川 央・旭堂 南鱗・前本 敏邦 (大阪水上バス社長)
第33回の京阪・文化フォーラムは、大阪水上バス開業30周年を記念して水辺の新たな魅力を発掘・発信する「水辺文化会談」との合同企画として行われました。
テーマは2014年から大阪城を中心に開催される「大坂の陣400年祭(仮)」に先立つもので、「水辺の歴史」と題して大川沿いにある大坂の陣戦場跡に残る様々な歴史ドラマにスポットが当てられました。
会場は大阪城天守閣を臨む追手門学院 大阪城スクエア。歴史愛好家の方をはじめ多くの方が参加され、第1部は講演、第2部は講談、第3部はトークセッションが行われました。
■第1部 講演
第1部は戦国史研究の第一人者、北川央先生の講演「大坂の陣 水辺の戦い」です。大坂の陣は1614(慶長19)年の冬の陣、翌1615(慶長20)年の夏の陣と、2度にわたる豊臣家と徳川家との決戦のことで、とくに冬の陣では淀川・大和川・木津川など大坂城とその周囲をめぐる水辺を舞台に様々な攻防戦が繰り広げられました。
当時の大坂城周辺は、海に近く、幾筋もの川が縦横無尽に走る湿地帯であったそうです。まず最初に大坂城が立つ上町台地の地勢の変遷について解説があり、続いて大坂城包囲戦に至る過程で起った「淀川の水をめぐる攻防」、「中島(なかじま)での攻防戦」、「大坂湾での海戦」についてご紹介。そして水辺の激戦として有名な「鴫野(しぎの)・今福合戦」、「博労ケ淵(ばくろうがぶち)の戦い」、「本町橋の夜討」について文献資料を読み解きながらご紹介をいただきました。
なかでも印象に残ったのは豊臣・徳川両軍とも淀川の水に着目し、豊臣軍は堤を切って水をあふれさせ徳川軍の進攻を防ごうとし、徳川軍は大坂城への進軍を阻む大川(天満川)を干上がらせようと、淀川をせき止めたという「淀川の水をめぐる攻防」です。大坂の陣といえば真田幸村の真田丸の戦いや茶臼山の戦い(天王寺口の戦い)に注目しがちですが、主戦場だけでなく水辺という身近な場所で行われた局地戦や、両者の激しいにらみ合いのドラマに大変興味を引かれました。
天下の雌雄を決する一大合戦の最中に起った様々な水辺の攻防。お話の中からそれぞれの戦における両軍の駆け引きや武将達の人間ドラマを知ることができ、大坂の陣を「水辺」という新たな視点から考えることができました。
■第2部:講談 難波戦記 真田幸村の砲撃
第2部は講談師・旭堂南鱗さんの登場です。大坂の陣を題材にした軍談『難波戦記』より「真田幸村の砲撃」が披露されました。講談の前には、南鱗さんご自身の“豊臣びいきの徳川嫌い”が高じてこれまでに出合った、徳川家康ら名だたる武将の子孫を名乗る方々との丁々発止の歴史バトルが会場の笑いを誘いました。
さて、『難波戦記』の主人公は大坂の陣において西軍側につき、獅子奮迅の活躍をした真田幸村です。幸村は冬の陣の際、大坂城の南方に出城・真田丸を築き、前田利常・井伊直孝軍ら数万の兵をことごとく打ち破り天下にその名をとどろかせました。
「真田幸村の砲撃」では、まず徳川家康の家来・村越茂助が鎌倉の鶴岡八幡宮の社領をめぐって秀吉と対立しかけた際、使者となって大坂へ申し開きに行き、事なきを得た話から、真田丸における幸村と徳川勢との死闘へと続き、最後は退却する東軍の武将・松平忠直に殿(しんがり)の名誉を与えたところまで、いきいきと臨場感たっぷりに語られました。
会場は南鱗さんの名調子に引き込まれ、幸村軍が前田・松平隊に対して側面から「ダダダダダーッ」と鉄砲を撃ち放すシーンでは思わず身構えてしまうほど。冬の陣でもっとも激烈を極めた合戦の現場を垣間見たような気分になりました。
■第3部:トークセッション
第3部は北川央先生、旭堂南鱗さん、大阪水上バスの前本敏邦社長を交え、先にお2人にご紹介いただいた「歴史」と「物語」の観点から、「水辺の魅力を再発見し、今後の大阪の観光を考える」というテーマでトークセッションが行われました。
第1部の内容から、自然の川や堀に守られた大坂城に対し、徳川家康ははじめから一旦和議を結び堀を埋める作戦を考えていたのではないか、と北川先生が見解を述べられました。また、南鱗さんは大坂城にある「謎の抜け穴」に触れ、『難波戦記』でも語られる真田幸村と豊臣秀頼の「薩摩への落ち延び伝説」についてご紹介されました。
そして、前本社長からは、「水辺の風景を楽しむだけでなく、大坂の陣の歴史や物語の面影を感じていただくことが水辺の新たな魅力創出につながるのでは」という話がありました。歴史的事実と物語は一見相反するものですが、物語の背景には歴史がただ過去のものではなく、未来へ受け継ぐ先人たちの思い込められているからこそ、いつの時代も色あせず人々を魅了し続けるのだと感じました。フォーラムにご参加いただいた方々からも、「とても面白かった」、「歴史ロマンを感じることができた」、「水辺観光の新しい可能性を感じた」など喜びのお声をいただきました。
- 京阪グループ開業110周年記念事業「記念フォーラム」
- 第44回 京阪沿線の城と歴史発見
- 第43回 明治維新と東海道五十七次
- 第42回 花と建築 建築と華
- 第41回 今、なぜ明治維新なのか。〜西郷どんの実像〜
- 第40回 東海道五十七次と大津宿・伏見宿・淀宿・枚方宿・守口宿
- 第39回 大政奉還、鳥羽伏見の戦い
- 真田幸村の足跡を辿る —九度山から大坂の陣まで—
- 第38回 国宝 石清水八幡宮本社
- 真田丸の戦略と真田信繁(幸村)の実像に迫る!
- 第37回 馬と人間の歴史
- 第36回 光秀と秀吉の天下分け目の山崎合戦
- 第35回 中世の京都町衆と祇園祭
- 第34回 彩られた京都の古社寺
- 第33回 水辺の歴史 大川沿いにある大坂の陣戦場跡
- 第32回 神に祈った武将たち -石清水八幡宮と源平・足利・織田・豊臣・徳川-
- 第31回 天下統一の夢 -信長と光秀の光と影-
- 第30回 信仰とお笑いの狭間に落語
- 第29回 平清盛と平家物語
- 第28回 葵祭
- 第27回 酒は百薬の長 落語は百楽の長
- 第26回 今に生きる熊野詣