沿線おでかけ情報

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|継ぐコラム|2024/04/10

京阪沿線 継ぐコラム Vol.3-2

ひかる恋を継ぐ《大津色ノ巻》

いまから約千年前、あるひとりの女性が観音さまにお願いをしました。
“どうか私によい物語を授けてください”。
世界最古の恋愛小説とされる「源氏物語」は、作者である紫式部の強い意志と、人や自然に対する奥深いまなざしから生まれました。いまも多くの人々に愛され、新たな話題を生みだしている名作に秘められた想いとは。滋賀・大津発のひかる恋を継ぐおでかけへ、京阪電車で出発です。

願いが集う、石の寺。

「縁結びから安産まで、身近なくらしの願いがかなう、と大人気の聖地だったんですよ」。石山寺について、そう教えてくださる山本淳子先生は、源氏物語の研究者。だからこそ、紫式部が“いい物語を書けますように”と願いにきた、と言い伝えられていることにも納得だそうです。たしかに、天然記念物の巨岩がそびえ立つ境内は、パワースポットらしい神秘的な雰囲気。

  • 石山寺

  • 石山寺

当時、気軽に外を出歩けない身分の高い女性にとって、“おまいり”は貴重なレジャーだったとか。ホテルのようにお寺に泊まり、車窓ならぬ牛車窓の景色を楽しみ…。「びわ湖の絶景やグルメを味わえる石山寺なんて、最高のリゾートだったと思いますよ」。

そんな高貴な方に、自分の見聞きしたことを語ってあげるのが、紫式部などお世話係の大切な役目のひとつ。相手を喜ばせたい気持ちが、その表現力に磨きをかけたのかもしれません。そう、源氏物語は、まだ作家という職業もない時代、純粋に“ひとと自分を楽しませる”ために生み出されたストーリーなのです。

石山寺には、土佐光起という江戸時代の絵師が描いた「紫式部図」もおさめられています。「教科書にも載っている有名な絵で、いかにも“いま物語を考えているところ”という雰囲気がとっても素敵なんですよ」と目を輝かせる先生。

だれも読んだことのないストーリーを求めて、京都から山をこえてやってきた紫式部。そのひたむきな背中を追いかけて、大津・ゆかりの場所へ。ひかる恋の物語のはじまりを探しに、いっしょに旅してみませんか。

  • 石山寺

  • 石山寺

  • 石山寺

石山寺

紫式部が源氏物語を書きはじめた、と伝わる「源氏の間」が本堂に。その本堂や多宝塔など、国宝を含む建物のほとんどが巨大なひとつの岩山に立つ景観は神秘的で、天才作家でなくても想像力を刺激されます。境内のお店には、京都の老舗とコラボした源氏物語イメージのお香グッズも。

  • 入山料:大人600円、
    印香 源氏の花々:1,250円、
    匂香 紫式部 掛香 訶梨勒(かりろく)(左):2,000円、
    匂香 紫式部 掛香 十二単(右):2,000円
  • 8:00~16:00(最終入山)
  • 077-537-0013
  • 石山寺駅下車 南へ徒歩約10分 MAP
  • 詳しくはホームページをご覧ください

甘い墨は、恋の味。

ひかる恋をさらに追いかける、その前にちょっとひとやすみ。
『叶 匠壽庵 石山寺店』は、幻となっていた石山寺の名物「石餅」を復活させた大津発祥の和菓子店。門前の風情ある茶店で、参拝する人々をもてなしています。
そんなお店の新名物が、紫式部にちなんだ「葛焼き染め筆」。硯(すずり)のお皿にのって出てくる2種類の葛焼きは、習字で使う墨にそっくり。なのに、食べるともっちり、黒豆や小豆の旨味たっぷり、という嬉しいギャップがたまりません。
黒蜜や抹茶で味を変えつつ完食すれば、甘い想いを伝えるセンスも身につきそう。

  • 叶 匠壽庵 石山寺店

  • 叶 匠壽庵 石山寺店

  • 叶 匠壽庵 石山寺店

  • 叶 匠壽庵 石山寺店

  • 叶 匠壽庵 石山寺店

叶 匠壽庵 石山寺店

約半世紀前に大津で創業。石山寺の門前で参拝者をもてなす店の新名物は、なんと硯(すずり)をイメージした和菓子。紫式部の愛用品とされる“二面の硯”にちなんで、黒豆で濃墨、小豆で薄墨を表現した葛焼きは、上品な甘さ。
そのままはもちろん、黒蜜や抹茶をかけるのもおすすめです。

  • おすすめ商品:イートイン「葛焼き染め筆」600円《 小豆・黒豆 各1個(黒蜜・ほうじ茶付き)》、
    お持ち帰り 1,080円《 小豆・黒豆 各2個(黒蜜・抹茶きな粉付き)》
  • 10:00~16:00(L.O.)
    水曜(祝日を除く)休業
  • 077-534-6331
  • 石山寺駅下車 南へ徒歩約10分 MAP
  • 詳しくはホームページをご覧ください

恋心を映しだす湖畔。

平安時代、旅の要所だったびわ湖。まだ結婚前の紫式部が北陸へと旅立ったのも、この湖からでした。都を恋しがりながらも、珍しい湖畔の風景に心惹かれる気持ちを、すばらしい歌にしています。

“三尾の海に 網引く民のてまもなく 立居につけて 都恋しも”
(意味:びわ湖で網引く漁師の姿を見ると、離れつつある都が恋しい)

都にいた未来の夫と素敵なラブレターで愛を育んだものの、結婚してわずか3年で死別。その悲しみを乗りこえて、書きはじめたのが源氏物語だったとか。
稀代の恋愛小説家、紫式部自身の恋を見守った湖は、いまも昔と変わらぬ美しさ。源氏物語にも登場する「打出浜」で、物語には書かれなかったもうひとつの恋に、想いをはせてみませんか。

  • 打出浜(大津湖岸なぎさ公園)

  • 打出浜(大津湖岸なぎさ公園)

  • 打出浜(大津湖岸なぎさ公園)

  • 打出浜(大津湖岸なぎさ公園)

打出浜(大津湖岸なぎさ公園)

紫式部が京を離れ、未来の夫と遠距離で愛を育む旅の出発地となったびわ湖。その湖を望む「打出浜」は、源氏物語にも登場する昔からの名所です。千年前から変わらない山並みや水平線を眺め、紫式部の揺れる心に思いをはせた後は、人気のカフェやレストランが並ぶ「なぎさのテラス」でひとやすみ。

  • 石場駅下車 北へすぐ MAP

君を待つ、縁結びの社。

ここからは京都市内で、ひかる恋さがし。
「上賀茂神社」といえば、古くから人々に愛されてきた大社。その祭礼である「葵祭」は、光源氏の妻と恋人がはち合わせするドラマチックなシーンで源氏物語に登場します。
そんな歴史ある社で、女性の強い味方となってくれるのが、ご祭神の母をまつる「片岡社」。縁結び、恋愛成就、安産などのご利益があるとされ、紫式部も参拝に訪れていたそうです。
その時に詠んだのが、“恋しい人を待ちつづけたい”という美しくも切ない歌。恋物語の天才にあやかって、あなたも待ち人を引き寄せてみませんか。

  • 片岡社(上賀茂神社)

  • 片岡社(上賀茂神社)

  • 片岡社(上賀茂神社)

  • 片岡社(上賀茂神社)

片岡社(上賀茂神社)

源氏物語にも描かれる「葵祭」を、平安以前から継承してきた世界遺産の社、上賀茂神社。なかでも女性の守り神として人気の片岡社は、紫式部も訪れて恋に憧れる心を歌にしたとか。紫式部の姿とその歌をあしらった縁むすびの「片岡絵馬」に、あなたも大切な人への気持ちをそっと託してみませんか。

  • 境内無料 片岡絵馬:500円
  • 上賀茂神社:境内自由(ニノ鳥居 5:30~17:00、楼門及び授与所 8:00~16:45)
  • 075-781-0011
  • 出町柳駅からバス 上賀茂神社前下車すぐ MAP
  • 詳しくはホームページをご覧ください

宝石のような美しい庭園。

大津からはじまった、ひかる恋を追う旅の終着地。
ここ「廬山寺」が立つのは、紫式部が育ち、結婚生活を送り、夫なき後も子育てをしたという邸宅跡。もちろん源氏物語も、この地で書かれたと考えられています。
そんな世界観をイメージしてつくられたのが「源氏庭」。白砂と苔で雲をかたどった庭園は、本堂の正面からだけでなく、本来の門に近い廊下の入り口から眺めるのがツウな楽しみ方だとか。
夏は紫のキキョウが咲く庭の美しさや、源氏物語ゆかりの美術品はもちろん、その穏やかな空気にいつまでも浸りたくなる隠れた名刹です。

  • 廬山寺

  • 廬山寺

  • 廬山寺

  • 廬山寺

  • 廬山寺

廬山寺

本堂の広い廊下に面した「源氏庭」の、清らかな美しさにうっとり。紫式部が家族と住まい、源氏物語を執筆した邸宅跡とされるお寺には、貴重なゆかりの品々が展示されており、ファンにとっては隠れ家のような聖地。物語を知らない人でも、苔と白砂のお庭を眺めて、心洗われる時間を過ごせます。

君がいた場所、君が見た風景。登場人物はもちろん、書き手のまなざしにも深く魅了される、ひかる恋の物語。その想いをしっかり受けとめ、心に継いでいくことで、あなた自身の新しいストーリーが、この街から輝きだします。

さて、つぎはどんな“継ぐ”に出会えるでしょうか。

ひかる恋を継ぐ《宇治色ノ巻》も、ぜひご覧くださいね!

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