落語はたったひと言に登場人物の人格が現れるんです

　噺の主人公は捨てられた犬の兄弟。もらわれ先によって全く違う運命をたどる兄弟の再会物語です。鴻池の使用人が「犬をください」とやって来て、かわりの品として反物やら酒やらいろんな物を持ってくる。その時、犬を飼っていた主人が「帰っておくんなはれ。どうせ金持ちが戯言（ざれごと）で飼って、犬の生き肝を取り出して何かの薬にしようというんやろ。犬と交換するには見合わへんこんな品、持って帰ってくんなはれ」と言う場面が大好きです。あんな高価な品々を見せられたら欲が出る。ところが、いくら捨てられていた犬とはいえ、むちゃくちゃなことをされたらあかんと思って申し出を断る。あの場面こそがこの噺のキモじゃないかと僕は思います。あのひと言に主人の品格が現れている。落語のすごいところは、そこだと思います。たったひとつのセリフに、その人の人格が現れているんです。僕は39歳の時に落語に出会いました。芸人としての今後を悩んでいて、吉本新喜劇をと考えましたが、当たり前ですがひとりでは稽古できず、やろうと決めたらすぐにやりたい性には合わない。その頃、東野幸治さんが「落語を聞け」と勧めてくれたのですが、「伝統芸能はちょっと…」と敬遠していました。それでも勧められて聞いた桂枝雀師匠の『高津の富』は違いました。枝雀さんやから面白いと思わせる何かがあって、マクラからすごい！と衝撃を受けました。そして「俺の人生でやるべきことがやっと見つかった！」と思ったんです。まだ聞いたことのない皆さんも落語にハマるタイミングが来ると思うので、その時はチャンスを逃さず聞いてください！