坂本・比叡再発見×おけいはん 【今回の達人】作家 若一光司さん
坂本の「日本一」
坂本駅
坂本駅で降りて、
石垣が導く、もうひとつの駅へ。
坂本の町並み
達人との待ちあわせは、「ケーブル」の坂本駅前。

来年の春には「坂本比叡山口」駅に名前が変わるという、
京阪電車石山坂本線の「坂本」駅。その駅から、美しい
石垣がつづく町並みを歩いて、達人が待つもうひとつの
「坂本」駅、坂本ケーブルの始発駅へ。こちらが今日の旅の
はじまりです。
「おけいはん、お久しぶり。もうすっかり大人ですね」。
そう、今回の達人は、私にとって特別な存在。6代目おけい
はんの審査員を務めてくださった、作家の若一光司先生です。
「今日は、坂本ケーブルから比叡山延暦寺までご案内しま
しょう」わあ、先生と歩けば、きっと、知らない景色や隠れた
名所に出会えるはず! いろんな魅力を、とことん教えてくださいね。
「もちろん。つい見過ごしそうな所にこそ、思わぬ発見が
あるものですよ」。

ケーブル坂本駅
今回の達人 若一光司さん

小説からノンフィクションまで、幅広い
ジャンルで話題作を生みだす作家。
関西を中心に日本各地の史跡や伝承を
独自の視点で探究し、著書や自身の
出演するテレビ番組等で紹介。京阪
電車においても、“京阪沿線の名橋を
渡る”など、さまざまなテーマで沿線を
案内するシリーズを連載中。

ケーブル坂本駅
美しく貴重な坂本の町並み、じつは古来からの参道です。

達人、この駅に来るまでの石垣の道、とてもキレイですね。
「全国の築城に使われた、“穴太衆積み(あのうしゅうづみ)”と
呼ばれる石垣ですね。あの広い通りはすべて参道で、石垣の
建物は比叡山延暦寺の僧侶が隠居してから住む“里坊”。
坂本は、比叡山延暦寺とその守護神である日吉大社、2つの
社寺の門前町なのです。京都の人にとって比叡山延暦寺
といえば、都の鬼門を守る寺でしょう。でも、その正面は
京都じゃなく、坂本の方を向いているのです」
…そうか、坂本は、比叡山の正面玄関なんですね。
「その玄関口をぐっと身近にしたのが、ちょうど90年前に
開業したこの坂本ケーブル。多くの貴賓が参拝に訪れる
から、駅舎のつくりも立派でしょう。国の登録有形文化財
にも指定されていますよ。それじゃあ、いよいよ車両に乗り
込んでみますか」。

日本一長いケーブルは、なぜカーブだらけなのか?

「坂本ケーブルの特徴といえば、2025mという日本一の
長さと、ケーブルには珍しいカーブの連続。まだ技術が
進んでいなかった当時としては、相当な難工事だったとか。
そもそも、なぜそんなにカーブが必要だったのでしょうね?」
もしや、スリルを求めて…? そんなわけないですよね。
「ここは比叡山延暦寺や日吉大社がある神聖な場所。上から
社を見下ろしたり、山肌を傷つけることがないよう配慮した
結果、こんな曲がりくねった路線になったのです。車内が
すいていたら一番下の席がおすすめ。木々の合間から見える
びわ湖の絶景と、カーブする線路の両方を眺められますよ」
さすが達人、足元にも見どころがあるなんて、トクした気分!
「いやいや、このケーブルにはもっとおトクで特別な楽しみ方
があるから。さ、つぎの駅で途中下車しましょう!」
え?途中(中間)駅で下車ですか?

※中間駅で下車する場合は、乗車5分前までに改札口または車掌に伝えてください。
ケーブル坂本駅
途中下車で探検
蓬莱丘地蔵尊
これが、駅のすぐそばだなんて。
蓬莱丘地蔵尊
ほうらい駅の石仏が語りかけてくる歴史。

た、達人…駅を降りてすぐに、驚きの光景が!
「 “ほうらい丘駅”の開業は1984年。坂本ケーブルの中で最も
新しい駅で、この霊窟とともにつくられた。中に祀られた
およそ250体の石仏は、織田信長の比叡山焼き討ちによる
犠牲者を弔うため、地元の人々が刻んだという。ほら、よく
見るとお顔のつくりがぎこちないでしょう。おそらく一般の
人々が慣れないノミをふるい、身近な人の死を悼んで
つくったんじゃないかな」。そんな歴史があったなんて…。
「うーん、これまでは数千人が殺されたとか、お堂が何百も
焼かれたと伝えられてきたけど…じつは近年の発掘調査で、
焼き討ちの被害はもっと少なかった、という説も出てきていますね」
「古い歴史にも、どんどん新しい発見があるから面白い。
さあ、つぎの“もたて山駅”では、何が見つかるでしょう?」

ほうらい丘駅付近
こんな景色も…
降りなきゃ出会えない!
もたて山駅に、土佐の人が集う理由とは。

わ、小さな駅! なのに立派な道標が…
あれ、建てたのは南国市?
「 この“もたて山駅”からは、ちょっとハイキング気分で、
その道標が指す場所まで歩きましょう。高知県南国市の
方々が、こんな山奥を訪れるのは…。ほら見えてきた、日本
随一の歌人にして『土佐日記』の作者、紀貫之の墓がある
からですよ」
土佐日記に紀貫之、学校で教わりましたよ! …名前だけ。
「彼は役人として4年間、現在の南国市に赴任。京に帰る
までの出来事をつづって日記文学に仕上げ、土佐の存在を
都や全国に知らしめました。その感謝を忘れず、今も
お参りされているんですね」
なんて、すてきな絆…。作家って、すごいお仕事ですね。

※もたて山駅周辺の散策は歩きやすい服装や靴でどうぞ。
紀貫之卿墳墓
達人に質問 [隠れた名所を見つけるコツは?]

コツなんてありませんよ。まずは好奇心。ガイドブックの情報に頼らず、
自分の目や五感で探せば、必ず何か見つかります。また、同じものを
見ても、知識があれば分かることも多い。「目」で見るのと同じように、
「知」でものを見ることも大切です。

もたて山駅
さあ、いよいよ…
ケーブル延暦寺駅
びわ湖を見晴らす山の上に!
比叡山延暦寺に到着
比叡山延暦寺 根本中堂
感じませんか、慈悲と慈愛。
深く、包まれているみたい。
※通常は堂内撮影禁止です。
比叡山延暦寺 根本中堂
日本仏教の原点と、日本人の心の源がここに。

ついに着きましたね、達人。比叡山延暦寺に。
「はい。日本の主な宗派の開祖がみな、ここで修行を積んだ
ことから、比叡山延暦寺は“日本仏教の母”とも言われて
いますよ。
その中心である根本中堂には、大名から贈られた天井画の
花々や、不滅の法灯など、目を奪われるものが多い
けれど…。何よりも、日本人の根底にある慈愛の心に
ふれられる気がします」
「ここは本物の修行地ですから。いまこの瞬間も、同じ
空間に、真理を求めて修行する人がいる。そう思うと、
自然と謙虚な気持ちになれるし、雑念から解放され、
凛とした心地になる」
そうお話しする達人の顔は、とても清々しそう。
昔から偉い人々がここを訪れたのも、
そんな想いを求めていたのかな。

おみくじ発祥の地で、真のおみくじを教わる。

「じゃあ最後に、女性心をくすぐる名所にご案内しましょう。
おけいはん、おみくじは好き?」。もちろん!
「こちらは元三大師堂といって、多くの人々の信仰を集め、
この寺を盛り立てた慈慧大師(じえだいし)[良源]を祀る
お堂。角大師とか、いろんな呼び名や伝説を持つけど…
その慈慧大師(良源)こそ、いまやどこの神社にもある
“おみくじ”をはじめた方ですよ」
すごい、そんな本格的なおみくじ、引いてみたい…!
「ただし、こちらで行うのは本来の正式な作法。まずは
おみくじを引くべきか、今は引かないでおくか、執事という
お坊さまと問答することから始めないと。子どもの命名、
病気や仕事など、いろんな悩みをもつ人が、執事さんと
よく相談したうえで、おみくじというかたちで観音さまの
お告げをいただくのです」。
今回は特別に、執事さまからお話を伺えましたが…
まだまだ心の準備不足…もっと自分で悩んで出直します!

元三大師堂(四季講堂)
元三大師堂(四季講堂)
心の整理をするのが、おみくじなんです。
吉凶ばかりにとらわれてました…
芙蓉園
「日本一」や「日本初」など、ここだけの物語がいっぱいでした。

達人にお礼を告げて、もう少しひとりで坂本の町めぐり。
こちらの「芙蓉園(ふようえん)」さんは、穴太衆積みの
石垣が映える見事な庭園を眺めながら、「比叡ゆば」と
呼ばれる湯葉のお料理をいただける名店です。
お店のご主人がすすめてくださった、女性客に人気の
「ゆば重」は、とろっとろの湯葉と上品なあん、ふっくら
ごはんの相性がたまりません。
こんな美味しいものを、つくったなんて…。
「じつは湯葉も、中国から比叡山に伝わり日本に広まった
とか」と達人から教わって、びっくりしました。
人々を救う教えだけでなく、いろんなものを生みだして
きた、この国のはじまりが詰まったお山なんですね。
知らなかったことを知って、自分の心を見つめ直して。
お山の上まで旅する間に、ちょっぴり成長できたかも、
と思える一日でした。

芙蓉園
達人、ありがとうございました。
見過ごしてたら、もったいない。

なぜ、こんなところに駅があるの? 橋やカーブが多いのは?
ふとした気づきを大切にして、一歩先にすすんでみたら、
これまで見過ごしてきた、いろんな物語に出会えました。
ひとつひとつのストーリーを知るたびに、その景色が
もっと輝いて見えるから。また行ってみよう、この先に。

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