達人への道 はじまりはじまり
藤𠮷さんは達人にあらず?
宇治駅
宇治橋 駅を降りて、橋をわたって、
中村藤𠮷本店
はじめまして、中村藤𠮷さん。宇治茶のこと、いっぱい教えてください。
ようこそ、まあ、どうぞ気楽に。
藤𠮷さんの第一声は、「達人なんて言わんといて」。

京阪電車宇治駅から宇治橋をわたって、麻ののれんがかかったお店の前へ。お茶の香りとともに奥から出迎えてくれたのは、ご当主の中村藤𠮷さん。“た、達人…(さん、をつけるのも変かな)”と呼ぼうとしたら、「達人とちゃうから、どうぞ堪忍して」。優しい笑顔に、たちまち緊張の糸がふんわり。「まずはごゆっくり」と、すすめられるまま、お客さま気分でカフェに入店してしまいました。

中村 藤𠮷

宇治の地で約160年つづく茶商「中村藤𠮷本店」の六代目。煎茶は煎茶らしく、玉露は玉露らしく、それぞれの味わいを追求した銘茶づくりを貫く一方、抹茶を使ったゼリイやアイスの開発で、“お茶スイーツ”ブームを創出。茶の世界や宇治の街に新しい風を運んだ風雲児でもある。

中村藤𠮷本店 カフェ
大人気スイーツ、いただきまーす。
宇治をにぎやかにしたくて、ご夫婦でお菓子づくり。

天井が高くて気持ちいいお店は、もとは製茶工場や事務所だったそう。お、そういえば柱に釘のあとが。と上を向いている間に、目の前に「生茶ゼリイ」が到着。青い竹の器に、ぷるんぷるんのゼリイとなめらかアイス。どちらもお茶の風味がすごい。ほどよい甘さに、手が止まりません。
「妻と二人で、いちから試行錯誤してつくったんですよ」。それ、本当ですか。「お茶を売るだけだと、常連さんは多くても新しい方は来ない。スイーツなら若い人も気軽に来て、宇治をにぎやかにしてくれる、と」。「その代わり、ガッカリさせたら宇治茶の信用も台無しですから、いまも必死です」。
達人の心意気がつまったスイーツとお店。だからこんなに美味しくて、心地いいんですね。

ぱくっ
お茶挽きはリズムと根性
挽き茶体験
お茶って、意外と、体力勝負、なんですね・・・
石臼からこぼれる輝く緑色、静かな音色

「そしたら、こちらへ」。カフェの次に通された奥座敷で、でんと真ん中に待ち構えていたのが、茶葉を挽(ひ)く石臼。「もう少し深くお茶を知ってほしくて、挽き茶とお茶席体験を設けているんです」。知らなかった、抹茶を臼でつくることさえ。ぜひ体験させてください。
まずは達人のお手本。「早過ぎず、遅すぎず、一定の間隔で回すんです」。しゃーら、しゃーら。いい音色とともに石臼から鮮やかな緑色がこぼれる。「さ、どうぞ」。うっ、想像よりずっと重い。じゃごっ、じゃごっ、じゃ〜り。私の音、壊れたレコードみたい。しかも肩が…「疲れるでしょう」と達人がニンマリ。「この大変さを知るからこそ、次にいただく濃茶が美味しいんです」。

お茶席体験
その緊張感も、楽しんでください。
ちょっと、緊張しますね。
石臼からこぼれる輝く緑色、静かな音色

お茶室があるのは、座敷に面したお庭のなか。「元禄時代の貴重な建物らしいけど、子どもの頃は僕の寝床でした」。ざっくばらんに話す達人も、茶室で向き合うと、ピンと張りつめた面持ちになる。
おじぎして、茶碗を回して…口をつけた瞬間、いま教わったお作法が吹き飛ぶ。濃い。色より、香りより、お茶そのものの圧倒的な力強さに、感覚がふるえる。“すごい…”。「これが、お茶です」。
「濃茶は、極上の茶葉を丁寧に挽いた抹茶をふんだんに使った、メインディッシュ。多くの手間やしつらえのすべてが、この一服のためにあるんです」。達人、私、初めてお茶を知りました。

なんだか体のなかまで、洗われていく感じ。お茶って、こんなに深いんだな。
03 極上も日常もお茶の魅力
甘いも、濃いも、旨いも、すべてご馳走さまでした。

「でもね、お茶のほんとの良さは、高級さじゃないんです」。そういって達人が最後に案内してくれたのは、店内の銘茶売場。あの濃茶に使う最上級の抹茶から、普段づかいの京番茶まで、いろんなお茶が並びます。
ここで達人みずから、自慢の煎茶をいれてくれるそう。最初の1煎は「うま味たっぷり!」、2煎目は「…ほのかな甘味」、3煎目は「すっきり爽やか」。どれもまるで味が違います。「ね、お茶って意外とお得でしょう?」。

[お茶を美味しく淹れるコツ]

2人分で茶さじ1杯(約10g)の茶葉を急須にいれ、沸騰したお湯を茶碗に注ぎ、茶碗を温めつつお湯を適温に下げます。それを急須に移し、約1分待って、最後の一滴まで注ぎ分けます。2煎目からは熱めのお湯をいれ、待たずに注ぎます。「一番のコツは急がないこと」

お茶席体験
その緊張感も、楽しんでください。
達人、ありがとうございました。

「宇治のお茶には、宇治川の川霧、農家の人たちの手、私たちお茶商いの目、
 この土地の心がすべて注がれているんです。
 そんな想いをひとりでも多くの人に伝えたくて、いいお茶づくりをめざしています」。
 帰りに渡った橋の上で、達人の言葉が、お茶の香りとともによみがえりました。

fin