僕の好きなみたらし団子を買う場面ではつい気が入ります

　「初天神」は、縁日のにぎわいや、親子が人の波にもまれながら歩く様子など、情景が目に浮かびやすいネタで、僕もよくやります。20年くらい前に笑福亭仁鶴師匠のテープを聞き、すごく面白くて演じたいと思ったんです。
　息子の「寅ちゃん」は、こましゃくれている中にも可愛らしさがあるという落語ならではの子供像。口も達者なので自分の子やったら腹が立ちますけど、他人の子やから可愛く見えるんやと思います（笑）。
　僕も娘が生まれてから、父親の気持ちがわかるようになりました。娘が小さい頃は一緒に縁日に行っていたのですが、毎回「綿アメ買って」って言うんですよ。アニメのキャラクターの袋に入った綿アメ、ひとつ500円。「高いなぁ…。でもまあ、お祭りやし」って思いながらしぶしぶ買ってました（笑）。そのうち娘も友達と縁日に行くようになって、一緒に行っていたのは一瞬だったんですよね。それを思うと、あの親子が初天神に行っていたのもほんの数年のことだったのでは。なおさら、そのやり取りがほほ笑ましいというか、愛しさを感じますね。
　いわゆる庶民のこの親子は普段はそんなにぜいたくもできなかったでしょうから、年に1度の初天神では、みたらし団子1本に賭けてたんやと思います。団子を食べてしまったらおしまいやから、蜜をねぶりたおしたろうと。僕もみたらし団子が好きなので、この場面では気が入ると言いますか、年々見せ方がオーバーになっています。アホになれる楽しいネタなので、僕がおじいちゃんになって師匠と言われるようになっても演じ続けたいですね。