急流に落ちるくらいのショック療法が必要だったのかも

　お坊っちゃんがアイドルに恋をして放心状態になり、親が「お金はなんぼでも出すから息子の気の済むようにしてやって」と知人に頼んで外に連れ出すというような、現代に置き換えてもおもしろそうな噺です。昔は、錦絵がブロマイドみたいなものでしたから、絵に描かれた女性に恋をすることはあり得たのかも。ただ、冷静に考えたら怖い話です。突然、「あんたみたいな人が好きやったんやー！」と言って、舟でさらうようなものでしょう。女の人が必死になって若旦那を振り払って、川に突き落としてしまった気持ちもわかります（笑）。
　若旦那が一方的に恋心を燃え上がらせるストーリーですが、はしばしに昔の宇治の風情が伝わってくる、情緒ある噺でもありますね。実際に宇治を訪れてみて驚きだったのは、宇治川の流れが思っていた以上に速かったこと。訪れる前は、若旦那はザブーン！と舟から落ちたものの、「はい、はい」とか言いながら、余裕のある感じでゆっくりと岸に上がって来る姿を想像していたので、全然違うなと。若旦那は命がけで舟を漕いでいったんやなと思いました。まあ、急流に落ちるくらいのショック療法じゃないと、目が覚めなかったのかもしれませんね。
　『宇治の柴舟』は、実は演じられることの少ない珍しい噺です。実際に聞くと身構えるかもしれませんが、落語家は初心者にもわかるように演じるので予備知識がなくても心配いりません。落語はお客さまの笑いがあって初めて成り立つもの。ぜひ一度、ただただ笑って楽しんでみてください。あと、着物で遊びに行く場として落語会を選ばれる方も多いですよ。落語には着物を着ているからこそわかる仕草もあるので、カタチから入ってみるのもいいと思います！