京都ツウのススメ

第二十七回 京の納涼床

[京の夏の風物詩 鴨川の納涼床] 毎年、5月1日の床開きとともに鴨川西岸にずらりと並ぶ納涼床。涼しげな川風が吹く、京都の夏ならではの楽しみを、らくたびの山村純也さんがご案内します。

京の納涼床の基礎知識

其の一、
江戸時代、鴨川に床机(しょうぎ)を並べて夕涼みをしたのが始まりです
※ 床机:脚のついた折りたたみ式の腰掛け
其の二、
かつては夏の厄除けの神事として祇園祭の期間に限られていました
其の三、
現在は5月から禊川(みそそぎがわ)の上に床が出され、夏の風物詩として親しまれています

涼風そよぐ納涼床

蒸し暑い京の夏を風流に遊ぶ鴨川の納涼床。「床(ゆか)」とは、鴨川西岸に沿って立ち並ぶ飲食店が、毎年5月1日(床開き)から9月末日まで、川に向かって出す木組みの席のことです。東山を借景とした鴨川の景色を眺めながら料理を楽しむこの風習は、江戸時代の初め頃、裕福な商人らが夏に遠方からの客をもてなすために、五条河原付近の中洲や浅瀬に床机を並べて夕涼みをしたのが始まりと言われています。

納涼でにぎわった四条河原

安土桃山時代から一大歓楽地だった四条河原では、飲食・遊興の宴など様々な興行が行われました。特に夏の納涼は盛んで、江戸時代には夏の厄除けの神事として祇園祭の神輿(みこし)が四条寺町の御旅所に移っている間だけ床が組まれました。京都の年中行事を記した『日次(ひなみ)紀事』(1676年)にはその当時の大変なにぎわいぶりが描かれています。その後、少しずつ形態を変え、現在では鴨川だけでなく貴船・高雄・衣笠などにも設けられる納涼床。川面から吹く風が心地良い京の夏に欠かせないものとなっています。

鴨川納涼床の歴史と変遷

江戸時代

江戸時代の床は、鴨川の浅瀬や中洲に床机を並べたりした簡単なもので、「河原の涼み」と呼ばれました。寛文年間(1661~73年)には石垣や堤が整備され、近くに先斗町・宮川町などの花街や芝居小屋ができるなど一層にぎやかになり、約400軒の茶屋が床机の数を決めるなど組織化されていきました。

ココがツウ納涼床は盛夏を過ぎると「後涼(あとすずみ)」と呼ばれ、当時の人々はそこで過ぎ行く夏のなごりを惜しみました

四条河原 夕涼其二

「江戸時代の京都遊覧 彩色みやこ名勝図会」(白幡洋三郎著)より「四条河原 夕涼其二」

明治・大正時代

明治に入ると、7・8月に床を出すスタイルが定着。四条大橋を中心に鴨川の両岸や中洲に高床式の床や床机が出てにぎわいました。しかし、1894(明治27)年の二条通以南の鴨川運河開削や鉄道の延伸により東岸の床が廃止。地元の店々の陳情により鴨川のすぐそばに禊川ができ、高床式の床はその上に出されるようになりました。

三条大橋下の床

ココがツウ大正時代には川面に床机形式の床が出されていましたが、その後の鴨川の治水工事の影響などで廃止となりました

「三条大橋下の床」(写真協力:国際日本文化研究センター)

昭和~現在

1934(昭和9)年の室戸台風と翌年の記録的な集中豪雨により、鴨川の床は壊滅的な被害を受けます。さらに、第二次世界大戦の勃発により納涼床は姿を消しました。
しかし戦後の復興とともに、1952(昭和27)年に京都府の「納涼床許可基準」が策定され、数十軒が営業を再開。現在では90軒以上の納涼床が並び、にぎわいを見せています。

納涼床

ココがツウ昭和初期までは2階建ての床があり、1階では鴨川に触れることができ、2階では眺望を楽しむことができました

鴨川納涼床マップ
鴨川納涼床
鴨川以外に楽しめる「床」

貴船の川床

貴船の川床は、大正時代、行商の途中に立ち寄った人々に、床机を出して茶や食事などを提供したことが始まりと言われています。鴨川の床と区別して「かわどこ」と呼ばれ、手を伸ばせば届きそうな水との距離感を楽しみながら、アユやアマゴなど川魚料理を味わうことができます。

貴船の川床
制作:2010年6月
バックナンバー
第百八十八回 京都とお花見
第百八十七回 京の歌枕(うたまくら)の地
第百八十六回 京都の地ソース
第百八十五回 『源氏物語』ゆかりの地
第百八十四回 京の煤払(すすはら)い
第百八十三回 京都の坪庭(つぼにわ)
第百八十二回 どこまで分かる?京ことば
第百八十一回 京都の中華料理
第百八十回 琵琶湖疏水と京都
第百七十九回 厄除けの祭礼とお菓子
第百七十八回 京都と徳川家
第百七十七回 京の有職文様(ゆうそくもんよう)
第百七十六回 大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)
第百七十五回 京表具(きょうひょうぐ)
第百七十四回 京の難読地名
第百七十三回 京の縁日
第百七十二回 京の冬至(とうじ)と柚子(ゆず)
第百七十一回 京都の通称寺
第百七十回 京都とキリスト教
第百六十九回 京都の札所(ふだしょ)巡り
第百六十八回 お精霊(しょらい)さんのお供え
第百六十七回 京の城下町 伏見
第百六十六回 京の竹
第百六十五回 子供の行事・儀式
第百六十四回 文豪と京の味
第百六十三回 普茶(ふちゃ)料理
第百六十二回 京都のフォークソング
第百六十一回 京と虎、寅
第百六十回 御火焚祭
第百五十九回 鴨川の橋
第百五十八回 陰陽師(おんみょうじ)
第百五十七回 京都とスポーツ
第百五十六回 貴族の別荘地・伏見
第百五十五回 京都の喫茶店
第百五十四回 京の刃物
第百五十三回 京都の南蛮菓子
第百五十二回 京の社家(しゃけ)
第百五十一回 京都にゆかりのある言葉
第百五十回 京のお雑煮
第百四十九回 京の牛肉文化
第百四十八回 京の雲龍図(うんりゅうず)
第百四十七回 明治の京都画壇
第百四十六回 京の名所図会(めいしょずえ)
第百四十五回 ヴォーリズ建築
第百四十四回 島原の太夫(たゆう)
第百四十三回 京の人形
第百四十二回 京の社寺と動物
第百四十一回 鳥居(とりい)
第百四十回 冬の食べ物
第百三十九回 能・狂言と京都
第百三十八回 京都と様々な物の供養
第百三十六回 京都とビール
第百三十五回 京都と鬼門(きもん)
第百三十四回 精進料理
第百三十三回 明治時代の京の町
第百三十二回 皇室ゆかりの建物
第百三十一回 京の調味料
第百三十回 高瀬川
第百二十九回 蹴鞠
第百二十八回 歌舞伎
第百二十七回 京都に残るお屋敷
第百二十六回 京の仏像 [スペシャル版]
第百二十五回 京の学校
第百二十四回 京の六地蔵めぐり
第百二十三回 京の七不思議<通り編>
第百二十二回 京都とフランス
第百二十一回 京の石仏
第百二十回 京の襖絵(ふすまえ)
第百十九回 生き物由来の地名
第百十八回 京都の路面電車
第百十七回 神様への願いを込めて奉納
第百十六回 京の歴食
第百十五回 曲水の宴
第百十四回 大政奉還(たいせいほうかん)
第百十三回 パンと京都
第百十二回 京に伝わる恋物語
第百十一回 鵜飼(うかい)
第百十回 扇子(せんす)
第百九回 京の社寺と山
第百八回 春の京菓子
第百七回 幻の京都
第百六回 京の家紋
第百五回 京の門前菓子
第百四回 京の通り名
第百三回 御土居(おどい)
第百二回 文学に描かれた京都
第百一回 重陽(ちょうよう)の節句
第百回 夏の京野菜
第九十九回 若冲と近世日本画
第九十八回 京の鍾馗さん
第九十七回 言いまわし・ことわざ
第九十六回 京の仏師
第九十五回 鴨川
第九十四回 京の梅
第九十三回 ご朱印
第九十二回 京の冬の食習慣
第九十一回 京の庭園
第九十回 琳派(りんぱ)
第八十九回 京の麩(ふ)
第八十八回 妖怪紀行
第八十七回 夏の京菓子
第八十六回 小野小町(おののこまち)と一族
第八十五回 新選組
第八十四回 京のお弁当
第八十三回 京都の湯
第八十二回 京の禅寺
第八十一回 京の落語
第八十回 義士ゆかりの地・山科
第七十九回 京の紅葉
第七十八回 京の漫画
第七十七回 京の井戸
第七十六回 京のお地蔵さん
第七十五回 京の名僧
第七十四回 京の別邸
第七十三回 糺(ただす)の森
第七十二回 京舞
第七十一回 香道
第七十回 天神さん
第六十九回 平安京
第六十八回 冬の京野菜
第六十七回 茶の湯(茶道)
第六十六回 京の女流文学
第六十五回 京の銭湯
第六十四回 京の離宮
第六十三回 京の町名
第六十二回 能・狂言
第六十一回 京の伝説
第六十回 京狩野派
第五十九回 京寿司
第五十八回 京のしきたり
第五十七回 百人一首
第五十六回 京の年末
第五十五回 いけばな
第五十四回 京の城
第五十三回 観月行事
第五十二回 京の塔
第五十一回 錦市場
第五十回 京の暖簾
第四十九回 大原女
第四十八回 京友禅
第四十七回 京のひな祭り
第四十六回 京料理
第四十五回 京の町家〈内観編〉
第四十四回 京の町家〈外観編〉
第四十三回 京都と映画
第四十二回 京の門
第四十一回 おばんざい
第四十回 京の焼きもの
第三十九回 京の七不思議
第三十八回 京の作庭家
第三十七回 室町文化
第三十六回 京都御所
第三十五回 京の通り
第三十四回 節分祭
第三十三回 京の七福神
第三十二回 京の狛犬
第三十一回 伏見の酒
第三十回 京ことば
第二十九回 京の文明開化
第二十八回 京の魔界
第二十七回 京の納涼床
第二十六回 夏越祓
第二十五回 葵祭
第二十四回 京の絵師
第二十三回 涅槃会
第二十二回 京のお漬物
第二十一回 京の幕末
第二十回 京の梵鐘
第十九回 京のお豆腐
第十八回 時代祭
第十七回 京の近代建築
第十六回 京のお盆行事
第十五回 京野菜
第十四回 京都の路地
第十三回 宇治茶
第十一回 京菓子の歴史
第十回 枯山水庭園の眺め方
第九回 京阪沿線 初詣ガイド
第八回 顔見世を楽しむ
第七回 特別拝観の楽しみ方
第六回 京都の着物
第五回 仏像の見方
第四回 送り火の神秘
第三回 祇園祭の楽しみ方
第二回 京の名水めぐり
第一回 池泉庭園の眺め方
  • おすすめ!
  • おでかけナビ
  • 京阪沿線って?
  • K PRESSプレゼント
  • ぶらり街道めぐり
  • 京阪・文化フォーラム
  • 京阪グループおトク情報
  • 他社線から京阪電車へ
  • 京阪グループ沿線の遠足・社会見学施設のご案内
  • ひらかたパーク
  • 京阪グループのホテル・レジャー予約
  • 比叡山へいこう!
  • アートエリア ビーワン

ページの先頭へ